有機合成化学が導く 次世代「IT革命」

有機合成化学が導く 次世代「IT革命」

分子レベルの部品を作る

半導体チップの性能を上げるためには「集積度」を上げることが必要です。今までは、おおよそ2年ごとに集積度が2倍になるという「ムーアの法則」に従って進歩してきました。集積度を上げると半導体チップのサイズが大きくなってしまうため、サイズを維持したまま集積度を上げるには、パーツ一つ一つのサイズを小さくする必要があります。しかし、現在の技術では13.5nmが限界とされており、さらなる微細化には分子レベルまでパーツのサイズを小さくする必要があるのです。

おわん型の分子をメモリに

そこで、半導体のパーツとして利用できる分子の研究が進められています。その一つが「おわん型」の分子を使ったメモリです。おわん型の分子は、おわんの凹面と凸面で区別できます。これを0と1にみなすと分子レベルのメモリになります。半導体のパーツとして利用するためには0/1の状態を可逆にする必要がありますが、これは「C60」という球形分子の一部を切り出したおわん型の分子により実現されました。C60はすべてが炭素原子ですが、その一部をほかの原子に置き換えると、原子サイズの違いによりおわんの曲率が変わり、反転に必要なエネルギーを変えられます。例えば3個の炭素を硫黄に置き換えることで、反転エネルギーを10分の1近くに減らすことができます。このように、物質の運動や性質をコントロールするために有機分子を構成する元素を巧みに入れ替えるのは「有機合成化学」の力です。

量子コンピュータも分子で実現

分子メモリによってパーツのサイズは小さくなりますが、古典的な0/1のビットをベースとした演算の速度には限界があります。そこで期待されているのが「量子コンピュータ」です。量子コンピュータは、量子の特殊な性質を利用することで、従来のコンピュータでは難しい複雑な計算を高速に行います。量子現象を扱うためにも、分子単位で物質を作ることは求められており、それが量子コンピュータの鍵となるのです。

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埼玉大学 理学部 基礎化学科 助教 古川 俊輔 先生

埼玉大学 理学部 基礎化学科 助教 古川 俊輔 先生

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機能物性化学、構造有機化学

先生が目指すSDGs

メッセージ

誰も正解を示してくれない中で、あふれる情報を取捨選択しながら生きなければならない時代です。しかも、最先端に出るまでに学ばなければならないことが日々積み上がり、必要とされる勉強量は増えるばかりです。そんな大変な時代でも、若い人たちには活躍してもらいたいと思います。そのためには、その時々におもしろいと思ったものを大切にしましょう。同時に、単に既存のコンテンツを消費するだけでなく、新しいものを生み出す側の楽しさも経験できると良いかなと思います。

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