食糧問題の解決に向けて。SDGsにつながる、植物専用のサプリ
環境変化に強い植物にする成長調整サプリ
近年は温暖化の影響により、農作物が枯れる、うまく育たない、という課題があります。農作物の生産量低下の約30%が気候変動によるものといわれています。海外では、環境ストレスに強い植物として、遺伝子組み換えの農作物が作られていますが、日本など一部の国では受け入れられていません。
気候変動があっても、安定して農作物を生産できる方法のひとつとして、植物の成長を調整する「サプリ」のような物質を与える方法が模索されています。これは、植物が本来持っている力を補ったり、抑制したりする方法です。
植物が有する未知のメカニズムを発見するチャンス
植物は、高温や乾燥といった環境ストレスに曝されると、アブシシン酸という植物の成長を止めるホルモン物質を作ります。アブシシン酸応答をコントロールできるようになれば、環境ストレスがあっても安定的に農作物を育てることができるようになります。この働きをする化合物を開発するために、アブシシン酸受容体の立体構造に基づいて、その機能を制御する低分子化合物が設計されています。
ただ、植物内でのアブシシン酸の作用メカニズムはいまだ完全には解明されていません。そのため、コンピュータ上ではアブシシン酸阻害剤として設計した化合物が、実際の植物試験では真逆の活性、つまりアブシシン酸の様な生理作用を示すことがあるのです。それでも、これが植物の新しい機能の発見や、新しい制御剤の開発につながる可能性を大いに秘めています。
医薬品と同じ手法での開発に期待
このように、タンパク質の立体構造から特異的に作用する化合物を設計し、生命に働きかける物質をつくる方法は、人間の医薬品をつくる手法と同じです。化学的な手法により生命現象を解明しようとする学問を「ケミカルバイオロジー」といいます。この手法による、植物の成長調整剤の開発は、今後成長が期待される分野です。農作物の安定生産を通して未来の食糧問題の解決に貢献するなど、SDGsにもつながるでしょう。
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先生情報 / 大学情報
静岡大学 農学部 応用生命科学科 准教授 竹内 純 先生
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農学、農芸化学、応用生命科学先生が目指すSDGs
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