小笠原諸島で考える、植物の独特の進化と多様性
「東洋のガラパゴス」とも呼ばれる海洋島
小笠原諸島は、東京から約1000キロ南に位置する、大陸と一度もつながったことのない海洋島です。現地には空港がないため、交通手段は6日に1便程度運航している定期船のみになります。
小笠原諸島には、外部からの植物はめったにたどり着けませんが、鳥や風、海流などによって運ばれてきた植物の種子は、競争相手のいない島の中で独特の進化を遂げ、固有の植物種となったものも数多くあります。植物のほかに鳥類や昆虫類にも固有種が多いことから、小笠原諸島は「東洋のガラパゴス」とも呼ばれ、世界自然遺産にも登録されています。
絶滅の危機に瀕している固有種
例えばムラサキシキブ属植物は、小笠原諸島では3種に種分化し、外見でもすぐに違いがわかるほどの進化を遂げました。やや湿った林内や林縁に生育するオオバシマムラサキ、やや乾いた低木林の林内に生育するシマムラサキ、稜線上の風当たりが強く乾燥した矮性低木林や岩の隙間に生育するウラジロコムラサキです。外部から閉ざされた島の中で、生育する環境の違いによって生じる植物の進化の過程を観察できる小笠原諸島は、非常に貴重な環境です。そしてその進化は、今も脈々と続いています。
しかし、前述のウラジロコムラサキをはじめ、小笠原諸島の固有種には、環境省のレッドリストに指定された絶滅危惧種も少なくありません。その原因は、180年ほど前に入植した人間が持ち込んだヤギなどの動物をはじめとする外来種が、小笠原の脆弱な生態系に大きな影響を与えてしまったからなのです。
生態系の本来あるべき状態を維持していく努力
小笠原諸島の固有種を守っていくためには、人間が持ち込んだ外来種の動植物を調査し、それらの駆除を含めた対策を適切に行っていくことが必要になります。これからは、固有種の生育環境へ人間が影響を及ぼすのをできるだけ避け、それらの固有種が本来あるべき状態を維持していく努力が一層必要になるのです。
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