誰もが下水道をいつまでも使い続けるために
下水道に潜む問題
下水道は私たちの生活に欠かせない重要なインフラ設備です。日本国内の普及率は80%を超える一方で、下水施設を管理するには多額の費用が必要であり、将来的に人口減少が進むと想定される地域では、持続的な下水道の維持が大きな課題となっています。
適切な制御システム
都市部の大規模な下水処理施設では、オペレーターが24時間常駐し、6~8時間で下水を処理する標準活性汚泥法が使われています。一方で、小規模な地方の下水処理施設では、コストの問題などにより常時の有人管理が難しいため、24~36時間かけてゆっくり処理するオキシデーションディッチ法が用いられています。この処理方法は、流れるプールのような水槽に活性汚泥と呼ばれる微生物を培養し、流れ込んだ下水と混合攪拌(かくはん)しながらぐるぐると何周も回しているうちに汚れが分解され、きれいになった水を処理水として排出するものです。
微生物が汚水を浄化するには酸素が必要なので、タイマーで一定時間ごとに空気を送り込んでいます。しかし、1日の中で下水の流入量と濃度は人々の生活に合わせて時間ごとに変化するため、タイマーで一律に運転するのでは実情に対応しておらず、電力の無駄が出ます。そこで、水槽内の2カ所にあるセンサで汚水中の酸素濃度を測り、酸素濃度に合わせて攪拌装置と空気を送る装置とをそれぞれ独立して制御するシステムが開発されました。
発展途上国の下水道整備
実際の下水処理場において、この方法の実証実験を行ったところ、それまでと同等以上の下水処理性能を発揮しながら、電力コストは3分の1まで低減し、処理時間も半分まで短縮することができました。この実績から、すでに全国9カ所の処理場への導入も決定しています。下水処理のコストの削減につながることで、人口が減って財政的に厳しくなる自治体でも、安定的な下水処理が維持できると考えられます。さらには、これから下水道の設置が進む発展途上国でも、持続可能な下水処理施設としてこのシステムが活用できると期待されています。
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先生情報 / 大学情報
京都大学 工学部 地球工学科 環境工学コース 教授 藤原 拓 先生
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