活性酸素で水を再生 健全な都市水循環システムのために

日本と世界の水事情
日本の雨量は世界平均の約2倍あります。ところが人口密度が高いため、1人あたりの水資源量は世界平均より少ないのです。しかも雨が降る時期に偏りがあるため、地域によっては水不足になる時期もあります。
世界に目を向けるとさらに深刻で、80億人の世界人口のうち22億人が安全な水にアクセスできず、適切なトイレ設備のない人が35億人、そして40億人が水不足に直面しています。水使用量の7割は農業用水です。水は食料問題にも直結する重要な資源なのです。
水を循環させるには?
水資源を効率よく利用するためには、下水を処理して再利用する循環システムが必要です。現在の再利用率はわずか1.6%程度に過ぎません。これは、下水処理場が下流にあるため、処理した水を上流部や中流部に送るには多大なコストがかかるからです。これを解決するには下水をその場で浄化して利用する仕組みが必要です。例えば、公園の地下に小型の再生プラントを設置して、周辺エリア内で水を循環させる方法が考えられます。
そのような分散施設に人が常駐するのは難しいため、自動運転が前提です。そこで、薬品や微生物を使わずに、電気の力だけで水を浄化する技術が求められています。
「悪者」を味方に変える
その一つとして、電気分解で活性酸素を生成して有機物を分解する技術が開発されました。活性酸素の高い反応性によって、下水中の有機物質を分解するのです。活性酸素は、体内では細胞を傷つけてがんの原因にもなりますが、浄化時に酸素や水に戻るため、安全な再生水が作れます。このほかにも電気分解をベースとした浄化技術が複数研究されています。これらの技術を使った浄化装置は構造がシンプルで自動運転に適しており、既に工場内では実用化されている例もあります。
一般家庭も含めた都市内の水循環システムを実現するために、法律を含めた社会システムの変革が望まれます。将来的には、こういった技術をベースに持続可能な水資源利用の実現が期待されます。
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龍谷大学先端理工学部 環境科学課程 教授岸本 直之 先生
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