比較することで見えてくる文学の面白さ
国や言語を超え影響し合う文学
文学を複数の国や言語で比較し相互関係を探る、「比較文学」という学問があります。文学作品は、世界各国でときに衝突しながら混ざり合い、影響を与え合っています。これは、例えば日本のスシが海外でも人気になり、アボカドやマヨネーズを使うカリフォルニア巻など、日本になかった発想で新しいスシがつくられたこと、それがさらに逆輸入され、最初は反発されながら、日本でも普通に食べられるようになったことに似ています。
『ゲイシャ』というミュージカルがヒットした理由
19世紀末イギリスの人気ミュージカル『ゲイシャ』(1896)は、「geisha」という言葉を世界中に広めました。それは当時の日本人にしてみれば、日本女性がみんな芸者に思われているようでショックなことでした。しかしそのヒットの裏には、イギリス人にとって芸者は「近代化した日本の脅威をやわらげてくれる存在」であると同時に、イギリス人男性にとって「権利を主張し始めた西洋人女性への不満を晴らしてくれる理想の女性像」という理由があったのです。今でも映画などで日本人が見ると違和感のある日本人が登場したりしますが、これをただ単に間違いとするだけでは、なぜそれが好まれるのか理由が見えてきません。外国の文学作品に描かれた日本像を探ると、その国がなにに不満を抱いているのかがわかり、同時に日本の意外な一面を知る手がかりにもなるのです。
現代に息づく古典作品
例えば『ゲイシャ』には、茶屋を営む中国人がめちゃくちゃな英語で歌う歌があります。この歌は、東洋人を馬鹿にしたものだったのですが、曲の良さもあって日本でもヒットしました。そして当初の目的とは正反対に、この歌詞は、鹿児島県や北海道の商業高校で応援歌として使われ、今なお歌われているのです。
文化は相互に影響しあいながら、もともとの意図や意味を超えて作り替えられ、受け継がれます。その越境と変容を調べて、思いがけない共通点や逆転現象を見つけるのは比較文学ならではの面白さです。
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先生情報 / 大学情報
大阪大学 文学部 比較文学専修 教授 橋本 順光 先生
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比較文学先生への質問
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