触媒の力で環境問題を解決する「環境触媒化学」
水素社会では水素をどう運ぶ?
未来のエネルギー源として水素に期待が集まり、水素の作り方を中心に世界中でさまざまな研究が進められています。社会で水素を活用するには、水素を作る場所から使う所にどう運ぶかも重要です。現在の水素の貯蔵・運搬方法には、気体としてボンベに詰める方法と、液化して容器に入れる方法の二つがあります。前者は水素の100倍近く重いボンベを運ばなければならず効率が悪い、後者は極低温を保つための高価な容器が必要なことに加えて、密閉できないため貯蔵中に水素が減ってしまう、という問題があります。
石油系のインフラで貯蔵・運搬
そこで注目されているのが、水素を常温・常圧で液体の状態で貯蔵・輸送可能とする「有機ハイドライド法」です。水素とトルエンの化学反応によって、メチルシクロヘキサン(MCH)に変化させます。MCHは常温・常圧で安定しており、消防法でガソリンとほぼ同じ扱いが可能です。現在、使用されているガソリンを運ぶトレーラーで運搬できて、ガソリンスタンドの設備をほぼそのまま使い回すことができます。水素ステーションなどを新たに建設する必要がなく、社会全体として大変効率の良い方法です。
水素をトルエンと反応する過程と、MCHから水素を取り出す過程の両方で、「触媒」が重要な役割を果たします。両方の反応に対して高性能な触媒が開発されており、共同研究をしている企業がゴルフ場のカートを駆動させる実証実験にも成功し、実用化の一歩手前まできています。
プラスチックのリサイクルにも
環境課題の解決に触媒が重要な役割を果たすほかの例として、プラスチックのリサイクルがあげられます。現在は廃プラスチックのほとんどが燃やされ、熱として回収することでリサイクルされたという扱いになっています。しかし、熱回収ではCO₂排出量は抑制されず、炭素資源の循環にもなりません。そこで、国内で生産されるプラスチックの約50%を占めるポリオレフィンを、原料である低級オレフィンに分解する触媒の研究が進められています。
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先生情報 / 大学情報
室蘭工業大学 理工学部 システム理化学科 准教授 神田 康晴 先生
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触媒化学、環境化学先生が目指すSDGs
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