がん患者の生存率向上に貢献する、放射線治療技術の研究
放射線治療の副作用
日本人の死亡原因の1位は、がん(悪性新生物)です。がんの治療には、手術療法、化学療法(抗がん剤)、免疫療法、放射線療法があり、それぞれが大きく進歩しています。また、これらの治療を組み合わせた集学的治療も前進しています。例えば、肺がんの場合、抗がん剤と放射線を組み合わせた治療で5年生存率が有意に向上し、免疫療法を追加すると、さらに有効であることが証明されています。ところが、放射線の副作用として肺炎(肺臓炎)を発症することが少なくありません。肺炎を発症すると、次の免疫療法を行うことができないので、副作用の低減は放射線療法のポイントの1つになっています。
放射線をコンピュータで制御する
放射線はがん細胞を破壊しますが、正常細胞を傷つけることが避けられず、それが副作用につながります。そのため、できるだけがん細胞のみに放射線を当てる必要があります。しかし、体内に入った放射線がどのように動くのかを、目で見て確かめることはできません。そこで、体内での放射線の動きを、物理学の理論に基づいてコンピュータで計算し、シミュレーションする研究が行われています。シミュレーションの精度が上がれば上がるほど、放射線の複雑な動きを正確に把握しコントロールできます。正常細胞をできるだけ傷つけないようにすることができるのです。
肺機能の視覚化も重要
放射線の副作用を低減する研究は、違う角度からも取り組まれています。例えば、肺がんでは「肺機能の視覚化」の研究が、副作用である肺炎発症の低減につながることがわかっています。肺には高機能の領域とそうではない領域があり、高機能領域を避けて放射線治療を行えば、肺炎の発症を抑えることができるからです。そのために、肺機能を視覚化して、高機能領域をあらかじめ把握する研究が行われています。また、特別な機器を使用せず、多くの医療機関が所持しているCT装置を使った「肺機能の視覚化」を実現する研究が取り組まれています。
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先生情報 / 大学情報
駒澤大学 医療健康科学部 診療放射線技術科学科 准教授 藤田 幸男 先生
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