整数や多項式の謎を解く 「可換環」の不思議
まとまりとして考える「環」
数学では、数や数式を、一定のまとまりとしてとらえるという考え方があります。足し算、引き算、掛け算という3つの演算が成り立つような数や式の集合を「環(かん)」と呼びます。そして、「a×b=b×a」のように掛け算について交換が可能な場合、その集合を「可換環(かかんかん)」と言います。
例えば、自然数同士の足し算の答えはすべて自然数ですが、「2-3=-1」のように、引き算をした場合は答えが自然数ではないことがあります。つまり、自然数全体は、可換環ではありません。範囲を整数とすると、整数内で演算が成立するので、整数全体は可換環となります。同様に、「3x+y」のような「多項式」の集合も、足し算、引き算、掛け算をしても多項式に収まるので、可換環です。
なぜ素因数分解ができるのか
「可換環論」は、数学の中で数字や式を主に扱う「代数学」の一分野であり、整数や多項式などの可換環の性質や構造について研究します。整数や多項式の性質としては、公約数、公倍数、素数、因数分解など、高校までの数学で学ぶ概念が多数あります。これらの性質は、可換環の基礎理論を使うと、正しいということが証明可能です。例えば、6は素因数分解をすれば2×3と表せます。「すべての自然数は素数の掛け算によって表すことができる」という原則が、素因数分解が成り立つ根拠ですが、このことは、可換環の理論を使えば、正しいことを証明し、なぜこうなるのかを説明することができます。
可換環を紐解く道具「ヒルベルト関数」
可換環論では、「環」の構造を調べるのに「ヒルベルト関数」と呼ばれる関数が使われます。整数や多項式は可換環ですが、それ以外にも、未知の構造を持つ可換環がたくさんあります。その構造を数値化し、分類するための理論として、ヒルベルト関数が有効であるとされています。可換環論の研究は100年以上の歴史を持っていますが、まだまだ未解決の問題も多い、奥の深い学問領域です。
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山口大学 理学部 数理科学科 准教授 大関 一秀 先生
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