講義No.13701 生物学

抗体や酵素を低コストで量産! タンパク質生産を効率化する方法

抗体や酵素を低コストで量産! タンパク質生産を効率化する方法

医療や産業に役立つタンパク質の合成

医療界や産業界では、さまざまなタンパク質が使われています。例えば、感染症の検査に使う「抗体」や、物質を分解・合成する「酵素」もタンパク質です。また、「脱石油」をめざして、木材のセルロースからつくるバイオプラスチック技術が研究されていますが、これにはセルロースを分解する酵素などが大量に必要です。このようにタンパク質は、主に動物の生体、大腸菌や酵母など、生きた細胞のタンパク質合成機能が応用されています。しかし、大量につくることが難しくコストがかかるという現状があります。そこで、有用なタンパク質を簡単に大量につくるための研究が行われています。

DNAにペプチドタグをつけて翻訳を促す

細胞内では、DNA情報がRNAに「転写」されたあと、RNAから「翻訳」してタンパク質を合成します。この仕組みを利用した人工的なタンパク質合成の際、翻訳がうまくいかない場合もありました。しかし最近の研究で、DNA鎖の端に特定のペプチドの情報(ペプチドタグ)をつけると、タンパク質への翻訳が効率化されることがわかりました。ペプチドはアミノ酸が複数つながったものです。従来、DNAの外側に手を加える研究がよく行われていた中で、DNA自身にペプチドタグを付けるという画期的な発想により、研究が進んだのです。
つなげるアミノ酸の種類や配列を変えることで、翻訳の効率が変わってくるので、現在は、有用なアミノ酸配列を探索する研究が行われています。またこの方法は、生きた細胞にタンパク質を合成させる方法だけでなく、試験管で行うタンパク質合成にも応用できます。

どんなタンパク質も低コストでつくりたい!

最近はAIによって、有用な機能を持ったタンパク質合成の設計が簡単にできるようになりました。しかし、十分な量が素早く低コストで合成できなければ、医療や産業の世界で使うことはできません。その意味でタンパク質翻訳の効率化技術は、よりよい社会を促進していくものとして期待されています。

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名古屋大学 農学部 応用生命科学科 分子生物工学 助教 加藤 晃代 先生

名古屋大学 農学部 応用生命科学科 分子生物工学 助教 加藤 晃代 先生

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メッセージ

高校時代、何となく微生物が面白そうだと思い、その勉強ができる農学部を探して進学しました。その後、食品素材の会社に就職して酵素を扱っていましたが、その中で博士論文を書く機会を与えられたことで、今の研究に結び付きました。向き不向きや将来性などにとらわれて、自分の興味をあきらめてしまうのはもったいないです。「面白い」を追求していけば、続けていくうちに人との出会いがあったり、自分のテーマが見つかったりするはずなので、まずは興味のある分野の情報に積極的にアクセスしてみましょう。

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名古屋大学は、研究と教育の創造的な活動を通じて、豊かな文化の構築と科学・技術の発展に貢献してきました。「創造的な研究によって真理を探究」することをめざします。また名古屋大学は、「勇気ある知識人」を育てることを理念としています。基礎技術を「ものづくり」に結実させ、そのための仕組みや制度である「ことづくり」を構想し、数々の世界的な学術と産業を生む「ひとづくり」に努める風土のもと、既存の権威にとらわれない自由・闊達で国際性に富んだ学風を特色としています。この学風の上に、未来を切り拓く人を育てます。