人体の要、肝臓の研究に貢献する画期的な細胞培養法
肝臓の役割
食事でとった栄養素は、胃や小腸で消化・吸収されます。そして吸収された栄養素は、血液とともに肝臓に集められ、全身へ再分配されます。したがって肝臓を分析すると、栄養素が身体におよぼす影響を調べることができます。
また肝臓は、脂質など栄養の代謝やアルコールの分解、薬物を解毒する機能を持っています。例えば新薬を開発する場合にも、肝臓を使った試験は欠かすことができません。肝臓は人体を知るうえで要(かなめ)となる重要な器官なのです。
体外では機能を失う肝細胞
肝臓のメカニズムを調べるには、まず肝細胞を培養する必要があります。しかし肝細胞は体外に出すと、残念なことに機能を失ってしまいます。そこで、培養方法の改良の研究がスタートしました。
研究を進めるうちに、シャーレ上で平面に行う従来の培養方法ではなく、立体的(三次元的)に培養を行えば体外でも機能が維持できることがわかりました。肝臓はもともと立体ですから、体内と同じ環境を与えることが重要だったのです。具体的には、細胞を固定する「細胞外マトリックス」というタンパク質を変化させ、細胞が自然に立体になろうとする性質を生かすことで実現しました。2011年9月、日本人の肝細胞をこうして培養したところ、機能を維持していることが証明されました。これは世界初の成果です。細胞が立体的になるのは実験の失敗だと言われた時期もあったので、まさに発想の転換の勝利と言えます。
三次元培養の肝細胞から広がる可能性
三次元培養した肝細胞の利用で、肝炎など肝臓病の研究発展や、薬の安全性試験で数多く行われている動物実験を減らすことができると期待されます。
また、人工肝臓をつくろうというプロジェクトもあります。肝臓を模した立体の中に肝細胞を詰め、人工透析(人工腎臓)のように、血液を体外循環させて肝機能の代替にするのです。実現までには超えなければならなないハードルがたくさんありますが、今回の成果が実を結ぶ日がいつかやってくるでしょう。
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先生情報 / 大学情報
名古屋大学 農学部 応用生命科学科 栄養生化学研究室 准教授 小田 裕昭 先生
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