細胞内の化学反応を、「集合」でまとめてみると?

化学反応の連鎖を「集合」で表現
生物学に数学を応用して、解析やシミュレーションを行う学問を「計算生物学」と言います。例えば、細胞の中で起きている化学反応の連鎖の構造を、中学・高校でも学習する「集合」を使って表現する研究があります。
細胞内では、様々な酵素がほかのタンパク質に一時的に結合し、その反応を制御しています。酵素自体もタンパク質であり、ほかの酵素によりその活性が制御されるため、多数の酵素が互いに活性を制御し合う形で連結した「酵素反応ネットワーク」を構成しているのです。
酵素反応に係る分子の「集合」
集合論には「分割」という概念があります。ある集合の中をお互いに重なることなく、かつすべての要素を網羅できるように部分集合に分けることです。
酵素反応ネットワークでは「分子S(基質)に分子E(酵素)が働き分子P(生成物)になる」という酵素反応がたくさん起きており、その全体を{S1,E1,P1,……Sn,En,Pn}を要素とする集合で表すことができます(nは反応の数)。その要素のすべてを{S1},{E1}のように、要素が1つの部分集合に分割します。細胞内では、生成物の分子がほかの反応の基質や酵素となったりします。例えば、生成物P1=基質S2なら、{P1,S2}という部分集合にします。その結果できる部分集合の集合が1つの分割になります。
集合の分割を使うと、酵素反応の関連を式として表現できたり、図示してネットワーク構造を見たりできるのです。また、この分割表現を微分方程式系に変換し解くことで、ネットワークの中の動きのシミュレーションもできます。
人工細胞の設計にも
この手法を使った研究例として、特定の性質を持った反応系の探索があります。例えば、1つの幹細胞が筋肉になるか神経になるか、2つの可能性のうちのどちらかに運命を決定づけるような性質を持つ反応を探す研究も行われています。また近年、人工細胞をつくる研究が盛んですが、人工細胞の設計をするときにも、このような手法が役立つと考えられています。
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