パピルスから読み解く、ローマ帝国支配下のエジプトの農民の暮らし
華やかなローマ帝国の陰にいた人々
紀元前後のイタリア・地中海周辺では、ローマの軍事的な拡大によって周辺の国々や地域がローマ帝国の支配下に入り、約200年にわたる「パクス・ロマーナ(ローマの平和)」が訪れました。この時代に関してはユリウス・カエサルやアウグストゥスの活躍、あるいはコロッセウムでの見世物、公衆浴場などの豊かな都市の暮らしが有名です。一方でローマ帝国に支配されていた地域の人々にスポットが当たることはほとんどありません。彼らはどんな暮らしをしていたのでしょうか。
エジプトに残るパピルス文書を読み解く
ローマ帝国時代の被支配地域では、支配者側と支配される側の貧富の差が拡大し、一般の農民たちは厳しい暮らしを送っていたと言われています。しかし、資料が豊富に残されている宮廷や都市の暮らしと異なり、被支配地域の人々の暮らしを知るのは簡単ではありません。当時の人々の暮らしを知る手がかりとなるのが「パピルス文書」です。紀元前30年ごろからローマ帝国支配下に入ったエジプトには、乾燥した気候により当時のパピルス文書が現在まで残っています。このパピルス文書から、エジプトの農民の暮らしを読み解けるのです。
契約書や嘆願書から見える人々の暮らし
パピルス文書に記されているのは、主に金銭取引やもめごとがあった際の記録で、契約書や徴税記録、嘆願書などが残っています。例えば当時の契約書を見ると、女性の自筆署名も一定数残されており、地位が高い女性は識字能力を獲得しやすい環境だったと推測されます。また嘆願書からは、弱い立場にいた農民たちも、経済的な窮状などを記して地主に訴えて、自分たちの待遇の改善を図ろうとしたことがわかります。
そして研究の上ではパピルス文書以外にもさまざまな資料を読み、わかった事実が歴史の中でどのような位置づけにあるか知るのも重要です。今後はエジプト農民の暮らしと中央の政治史との関連を調べ、より深く理解することが課題となっています。
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東京都立大学 人文社会学部 人文学科 歴史学・考古学教室 准教授 髙橋 亮介 先生
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