「テリトーリオ」と「コモンズの精神」が支えるイタリアの豊かさ

「テリトーリオ」と「コモンズの精神」が支えるイタリアの豊かさ

農業が創る豊かな社会

イタリアは、経済的な豊かさや失業率といった点では日本に劣りますが、おいしい食べ物や美しい景観に囲まれ、人々が日々の生活を謳歌(おうか)しているという意味で、とても豊かな国といえます。この豊かさを支えているのは農業です。地域性に富んだ伝統的な食文化、畑が濾過してくれる水、人々の心を癒やす景観、地域の在来種を含む生物多様性などは農業の多機能性と呼ばれます。イタリアの人たちはこうした農業の多機能性を守ろうという強い意識をもっています。

テリトーリオとコモンズの精神

イタリアの農業を表すキーワードに「テリトーリオ」があります。これは「共通する社会的、経済的、文化的なアイデンティティをもつ都市と農村のまとまり」を意味します。近代化や工業化による効率化を目的とせず、その地域の伝統や価値を守ろうという意識が根づいています。もう1つのキーワードは地域の資源を守ろうとする「コモンズの精神」です。コミュニティの皆が地域の水や土壌などの資源を独占したり使い切ったりすることなく、活用しながら、保存していく。さらに、違う産業の人たちとも協働で活動し、農産物・食品の販売だけではなく、人々を惹きつける景観やレクリエーションで、ツーリズム(観光)を含めた地域全体の活性化にもつながっています。

日本の農業がめざすべき道

一方、日本の農業政策はスマート農業、AI化、効率化、大規模化という言葉とともに、農業の成長が推奨されています。日本の農地面積の4割は中山間地と呼ばれる傾斜地や山の間で、機械化や効率化ができないにも関わらずです。農業の持続可能性を高めるためには、農業の多機能性で農村の輝きを甦らせたイタリア型農業にこそ多くのヒントがあるといえるでしょう。消費者としての私たちは、テリトーリオに根ざした農業を実践する生産者を支援していく必要があります。方法としては、例えば地産地消や食育活動があります。私たちのその活動が、地域の日本の農業の未来、ひいては私たちの食料安全保障を守ることにつながるのです。

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法政大学 経営学部 市場経営学科 教授 木村 純子 先生

法政大学 経営学部 市場経営学科 教授 木村 純子 先生

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経営学、農産物マーケティング

先生が目指すSDGs

メッセージ

流通網が発達した現代の日本では、スーパーやコンビニエンスストアの棚がガラガラになるようなことはありません。いたるところに飲食店があり、メニューも豊富ですから、食への不安や危機感を感じることはないでしょう。しかし、日本の食は危ういのです。多くの農産物・食品を輸入に頼り、廃棄される食べ物は多く、肥料や畜産用飼料は高騰し、担い手不足にあえぎながらも、農家さんは命を削るような努力で農産物や動物の命を育て、私たちに提供してくれています。こうした事実にぜひ意識を向けてほしいです。

先生への質問

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