伝統芸能から医療・福祉まで 「身体知」の可視化が教え方を変える
身体の動きの感覚を教える難しさ
例えばダンスを見ていて、「さすがにプロは上手だ」と感じるときの、「うまさ」とは具体的に何でしょうか? 「動きにタメやキレを入れて」などと教えられても、その「タメ」「キレ」を説明する言葉は、先生によって違います。このように、伝統芸能やスポーツの教育、職人の技能の伝承など、身体を使う「技」を他者に伝えるときは、それぞれの現場で教え方を試行錯誤しているのが現状です。また、教わる側も、言われたとおりにやっているつもりでもうまくできなくて、どこが間違っているのかわからないこともあります。
動きの数値データをとって
こうした身体が覚えている技「身体知」のデータをとり、可視化することで、教育や技の伝承をサポートしようという研究が行われています。例えばある地方の和太鼓の伝承では、具体的に何が変わって上手くなったのか説明することができませんでした。そこで研究者は、熟練者と話し合いながら、「技」の良しあしを決める要素となる動きを特定したうえで、身体にセンサをつけて計測し、数値データから動きを推測可能な方法を考案しました。すると、フォームの違いが一目でわかり、これまであいまいだった「教え方」に、数値データを使った指導・伝承が加わる可能性を見出しました。
医療・福祉スタッフの教育にも役立つ
この研究は病院のリハビリテーションにも役立っています。例えば患者の歩行訓練で重要なのは、その患者にとって転ばない歩き方になっていることですが、理学療法士の経験による判断が必要になります。そこで、研究者は、新たに「安定的に同じ動作を反復できる」ことを評価基準とし、センサで動きを測り動きの同一性を可視化する研究が行われました。その結果、患者自身も自分の上達度を把握することができ、リハビリの効果を上げることができたのです。このような身体知をデータ化して情報技術で表現する研究は、手術室の看護師の動きを対象にした例もあり、医療や福祉の現場でも、スタッフの教育に利用できると期待されています。
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岩手県立大学 ソフトウェア情報学部 ソフトウェア情報学科 社会システムデザインコース 准教授 松田 浩一 先生
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