スペイン近世の王はフットワークが軽かった? 時代ごとに変わる常識
『ドン・キホーテ』とスペインの歴史
小説『ドン・キホーテ』には、17世紀頃のスペインを反映した描写が登場します。例えば作中に、移動している羊の群れをドン・キホーテが軍隊の移動だと勘違いし、その群れに突撃するシーンがあります。
17世紀頃までのスペインでは、『ドン・キホーテ』のように羊の大群が移動する光景が日常的でした。羊毛を刈り取って当時のオランダなどに輸出し、資金を稼いでいたのです。また、戦いが起きたとしても資産として持って逃げやすいため、レコンキスタの時代から羊のような動産が好まれていました。このようにスペインの歴史を探り現代との違いを知ることで、小説の世界観をより深く理解できるようになります。
王のイメージは教科書と違う
現代の社会と16~18世紀の近世スペインを比較すると、国の仕組みもまったく違っていたことがわかります。現代の人々は「国」といえば、1つの国の中に共通の言語や文化を持つ国民がいる「国民国家」を想像するでしょう。しかし近世スペインでは国の中にさらに複数の小国があり、各地域の貴族や議会が政治をしていたことが歴史学の研究でわかってきました。
16世紀のスペインには国を統治する1人の国王が存在していたため、世界史の教科書で「絶対王政」として語られています。しかし実際は国王の力はそれほど強くなく、宮殿で待っているだけでは国を支配できませんでした。ときには国王自らが各地の議会に足を運び、交渉した場面もあります。王の正統性・正当性は各地域を大切にすることに基づくと、近世の人々は考えていました。
歴史から知る現代の独自性
このように異なる時代のシステムを知ると、現代の人々が常識だと思っている国の仕組みや生活は決して普遍的なものではないとわかります。現代の国民国家とは、歴史の中でさまざまなプロセスを経て形成された独自性のあるさまざまなシステムの1つに過ぎません。長い時間をかけて築かれた社会にはどのような特徴があるのか、ほかの時代と比較しながら歴史学の研究が行われています。
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上智大学 外国語学部 イスパニア語学科 教授 内村 俊太 先生
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