私たちの知覚は、脳が作り出している
目に映る像と、知覚が同じとは限らない
目の奥には網膜という光を受容する組織があり、そこで光情報が電気信号に変換されて脳に運ばれます。私たちの目には色鮮やかな世界が映っていますが、実は光に色はありません。網膜で受容された光が脳内で処理されて“色の知覚”が作り出されているのです。
知覚は脳が作り出しているものなので、脳活動次第で知覚も変わります。別の言い方をすれば、私たちが“見えた”と感じるものは、目に映っている像と同じとは限りません。例えば、物理的には暗い物体であっても明るく見えることもありますし、実際は茶色の物体が、オレンジ色に見えることもあります。私たちの知覚は、外界の情報を脳が情報処理した結果に過ぎないのです。
脳の情報処理には偏りがある
脳では、限られた数の神経細胞を使って情報処理をするために、重要な情報だけが抽出されています。たとえば新聞を読むとき、視野の中心部分の文字は読めますが、周辺の文字を読むのはとても難しいはずです。これは中心視野に情報処理の約50%を割いているからです。このように脳はコンピュータとは違い、情報処理に偏りがあります。ある意味人間らしいと言えるかもしれません。
脳を工学的に探る
脳の情報処理を工学的に探る方法があります。脳や神経細胞をブラックボックスとして扱い、入力と出力の関係から、脳内のシステムを推定するというやり方です。視覚なら、画像や映像を入力として与えて、出力との比較をします。神経細胞の応答や脳波などの脳活動を出力とすることもできますし、心理実験を行って知覚判断を応答とすることも一つのアプローチ方法です。
人工知能にも、同じ方法が使えます。画像の物体識別ができる人工知能も中身はブラックボックスで、なぜ物体識別ができるかはよく分かっていません。そこで、人工知能でも入力と出力の比較を行い、情報処理を分析します。人工知能の中身が理解できれば、人の脳と同じような偏りを加えることで、人間らしい人工知能ができるかもしれません。
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岩手県立大学 ソフトウェア情報学部 ソフトウェア情報学科 人工知能コース 准教授 眞田 尚久 先生
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