大切なものを失ったなら? 高次脳機能障害のケアを考える

大切なものを失ったなら? 高次脳機能障害のケアを考える

日常生活に戻るために

病気やけが、事故で脳を損傷すると、記憶や注意、行動など脳機能の一部に障害が起きることがあります。この「高次脳機能障害」は、病院を退院できればもう大丈夫というわけではないのですが、患者の多くはすぐ日常生活に戻らざるを得ないのが実情です。管理の行き届いた病院を離れるとできなくなってしまうこともあり、できない自分を受け入れられなかったり、家族とぶつかったりと、多くの人に喪失体験などの問題が生じています。
そこで、社会復帰前のワンクッションとなる場として、福祉施設でリハビリテーションを実践する研究が進んでいます。その1つが心理学の手法を取り入れた「喪失体験のケア」です。

心の動きをサポート

喪失体験のケアのポイントになるのは「納得」です。体の機能や言語機能、さらには仕事や収入など、失った大切なものは取り戻せないため、「喪失」を心の中で納得していく作業に取り組みます。納得は勧められてできることではなく、自分で理解して付き合っていける部分を探すしかありません。その納得する過程をサポートするのです。個人による違いはありますが、関わるタイミングやどんな言葉をかければいいのかなど、一般化できる法則性をなんとか見つけようと事例検討が重ねられていいます。

失うことは特別じゃない

そもそも、喪失自体は決して特別なことではありません。例えば転校して友だちと会えなくなることや、大切なペンをなくすことも喪失です。失うことに対するショックは、大人になればなるほど大きくなると考えられています。人生の見通しを意味する「時間的展望」との関わりも含めて、今後は喪失をどのように理解したらいいのかという研究にも広がるでしょう。
喪失後も人生の時間は長く、効果的なサポートの介入方法が求められています。「生きる意味」を見いだす「ロゴセラピー理論」を、リハビリテーションに生かすことも考えられています。心理学的な手法は、高次脳機能障害の人の社会復帰を支える重要な役割を担っているのです。

※夢ナビ講義は各講師の見解にもとづく講義内容としてご理解ください。

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先生情報 / 大学情報

岩手県立大学 社会福祉学部 人間福祉学科 教授 中谷 敬明 先生

岩手県立大学 社会福祉学部 人間福祉学科 教授 中谷 敬明 先生

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臨床心理学

メッセージ

大学に入るということは、あなたの人生にとって、とても大きな意味を持つと思います。だからこそ、入ることが目的ではなく、大学で何を学んでどうしたいのか、卒業して何をしたいのかということを考えてほしいです。それは一度で決めなければいけないものではありませんし、一度考えたら終わりでもありません。絶えず計画して直していいのです。今自分がやりたいことを思い浮かべてみてください。親でも友達でもなく、あなた自身のことです。あなたが決めて、やっていける場所が大学なのです。

岩手県立大学に関心を持ったあなたは

大学は「知識」を得る場であるだけではなく、「人生の目的」を考える場であり、これからの人生で自分は何をなすべきかを探求する場でもあります。人はそれぞれ固有の素質と能力を持っています。それをいかに見出し、育成していくかが教育の最大課題であると考えています。この大学での貴重な学習期間に、自己の能力と個性を伸ばし、適性を見出すことに努めてください。本学の教職員は、全力を挙げてこれに協力します。