避難訓練で災害時の課題を見つけ出すには

避難訓練で災害時の課題を見つけ出すには

地域による被災の違い

災害の備えとしての家庭内での食料備蓄は、かつては3日分が目安とされていましたが、東日本大震災では道路復旧に1週間近くかかったことから、それ以降は1週間分を推奨されるようになりました。しかし、令和6年の能登半島地震では、地理的な要因などから道路復旧が遅れて、支援体制が整うまでに1週間以上の時間を要しています。災害への備えには一定の推奨基準があるものの、それぞれの地域の特性に合わせた対応の必要性を突き付けられた形です。

避難訓練を向上

地域の課題や特徴を把握するためには、避難訓練が非常に有効な手段です。ただし、単なるルーティンとして行うのではなく、避難訓練の成果を向上させる+αの取り組みが重要です。例えば、自宅から避難場所への移動を想定した地域の訓練では、参加者それぞれにGPS発信機を持って避難してもらうと、避難に要した時間と経路の正確なデータが蓄積されます。それらのデータと、地域ごとに予想されている津波到達時間を併せて分析することで、地震が発生から何分で家を出るべきか、助けに行く場合は何分の余裕があるかを数値として算出できます。人間は災害に直面した時、根拠もなく「私は大丈夫」と思い込んで危険を軽視する「正常化の偏見」という心理状況に陥る可能性があります。具体的な数値目標を掲げることが、避難の必要性を理解させる1つの手段になるのです。

情報を読み解く力

与えられた情報を読み解く工夫も重要です。自治体が発行するハザードマップに小学生で習う垂直二等分線を書き込むことで、もっとも近い避難場所を見つけられます。2つの避難場所から同じ半径の弧を描いた交点をつなぐと垂直二等分線が引けます。この線をいくつも引いていくと、各避難場所に近いエリアを区分できるのです。自分の手を動かして地図を読み解いておけば、いつもと違う場所で被災しても、すぐさま最も近い避難所をめざせます。避難訓練に一工夫を加えることが、被災した際の命を守る行動につながるのです。

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岩手県立大学 総合政策学部 総合政策学科 地域社会・環境コース 講師 杉安 和也 先生

岩手県立大学 総合政策学部 総合政策学科 地域社会・環境コース 講師 杉安 和也 先生

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社会システム工学、都市・地域防災

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メッセージ

私たちの世界には、経験してみないとわからないことがたくさんあります。ですから、ぜひ若いうちにいろいろな場所を訪れて、たくさんの人たちと話をして、経験値を伸ばしてもらいたいです。一方で、一つのことを突き詰めるのも素晴らしいことです。ただし、引きこもって何かを突き詰めたいなら、その分野をすべて知り尽くすようなオタクになってください。そして、常に比較をしながら客観的に見ていけば、より突き詰めたいものを深掘りしていくことができるはずです。

岩手県立大学に関心を持ったあなたは

大学は「知識」を得る場であるだけではなく、「人生の目的」を考える場であり、これからの人生で自分は何をなすべきかを探求する場でもあります。人はそれぞれ固有の素質と能力を持っています。それをいかに見出し、育成していくかが教育の最大課題であると考えています。この大学での貴重な学習期間に、自己の能力と個性を伸ばし、適性を見出すことに努めてください。本学の教職員は、全力を挙げてこれに協力します。