「生きる意味」は教えられない? 人間にとって教育って何だろう
生きる意味・教育の意味を問う
教育学といえば、「よい教師になるために学ぶこと」というイメージがあるかもしれませんが、実はさまざまな分野があります。「教育哲学」「教育人間学」という学問分野では、「人間は何のために生きるのか」「教育は何のために営まれるのか」など、「そもそも」どうしてなのかを考え、人間と教育の意味を問いながら学びます。教師になるために「役立つ」教育学が「応用学」であるのに対して、教育哲学は「基礎学」であるといえます。
いじめや不登校にどう向き合うのか
例えば「生きる意味の思想」をテーマにした研究では、生きる意味をどう考えるかを問いつつ、人の成長や教育との関連を考えていきます。ナチスの強制収容所から生還したユダヤ人の精神科医で哲学者のヴィクトール・フランクルは、自身の経験と思索から生きる意味を考えました。人間は、どうしようもなく自己中心的であると同時に、他者や自然やものを思いやる心を隠し持っており、それを自分の中にどう喚起していくかというところで生きる意味を見いだそうとしたのです。フランクルは、価値観が不確実になり、個々人に独自の生きる意味が見失われやすい時代の中で、教育がどうあるべきなのかを問いかけています。いじめや不登校などの問題が、表面的な処方箋で解決できない今、「人間のあり方」から深く考えることで問題の本質が見えてきます。
「生きる大人の姿」を見る子ども
現代の教育を考える際に最も切実なのは「生きる意味」の問題ですが、残念ながら直接それを子どもたちに「教える」ことはできません。子どもは目の前にいるたくさんの大人の姿を見て育ちます。実は、大人自身の生きる意味に対する向き合い方、苦しみながらも自分なりに誠実に生きるという姿勢に触れることが何よりも大切なのです。人が育つということは「共に生きる」〈いのち〉の風景です。一生の間でさまざまな人に出会い、共に成長し合って生きていくこと、それは誰かが決めた「教育システム」の中では設定できないという側面を忘れてはいけないのです。
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先生情報 / 大学情報
関西学院大学 教育学部 教育学科 教育科学コース 教授 岡本 哲雄 先生
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