タンパク質は集団行動が得意! 心臓が一定のリズムを持てるワケ
なぜ心臓は一定のリズムで伸縮できるのか?
人間を含め生物の身体の仕組みは、今や分子レベルで解明されつつありますが、まだまだわかっていないことが多くあります。例えば、安静時の脈拍、つまり心臓の筋肉が伸びたり縮んだりする周期です。これは心筋細胞の中のタンパク質、アクチンとミオシンの滑り運動の速度と比例することがわかっていますが、なぜ、タンパク質分子たちが同期して一定のリズムで動くことができるのか、その原理はよくわかっていませんでした。そんな中、細胞中のタンパク質の「分子集団現象」が、そうした謎を解くカギになるのではないかという発見がありました。
周りに合わせて状態を変える
タンパク質分子は常に一定ではなく、その性質や状態が変化します。先述のアクチンとミオシンの滑り運動も、そうした性質、状態の変化によって起こっています。性質の変化を起こす要因は、エフェクタと呼ばれる化合物が着脱することだとされていますが、それだけが要因であれば、変化のタイミングはバラバラのはずです。
実は数百個のタンパク質分子が集まると、その集団の中のどの辺りにいるのか、つまり近くの分子の状態に合わせて分子の性質が変わり、それにより化学反応の速度が変化することで、集団全体の動きが一定の周期をとるとわかってきました。分子の置かれている環境や化学反応の時間経過も変化の要因になっていたのです。
「分子集団現象」の観察で生物の謎を解く!
このように、タンパク質分子が単体でいるときと集団でいるときに動きが違うという分子集団現象は、分子単体で観察することでは見えてきません。この研究結果をもたらした背景には、集団での観察が可能な「クライオ電子顕微鏡」など、高度な装置の存在があります。
べん毛運動など、生物の器官が一定周期で動く現象の詳細がわからない例はたくさんあります。今後、高度な観察技術を組み合わせて、分子集団現象を計測していけば、そうした謎が解き明かされると期待されています。
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先生情報 / 大学情報
名古屋大学 理学部 生命理学科 准教授 成田 哲博 先生
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