頭だけになっても復活する! ウミウシの驚くべき再生能力
頭だけでも生きる生物
プラナリアやトカゲなど、動物の中には自ら身体の一部を切り離す「自切」をおこない、その後再生する種類がいます。ほとんどの例では、尻尾や脚の一部など体の末端を切り離します。ところが、嚢舌類(のうぜつるい)というグループのウミウシは、首から下をすべて自切します。
そして、たとえ頭だけになっても、ウミウシは約3週間で体を再生することができるのです。頭だけになったウミウシには心臓がありません。つまりウミウシは、心臓も含めて胴体をすべて再生しているのです。これは明確な形の心臓をもつ他の動物では知られていない現象で、そのメカニズムがわかれば再生医療にも貢献できるかもしれません。
なぜ自切をするのか
これまでにこのような自切が確認されたウミウシは2種類です。自切の理由はまだわかっていませんが、クロミドリガイという種では体内に寄生虫がいる個体でのみ自切が確認されたので、寄生虫を排除するために自切するのかもしれません。
また、頭だけで生存できるのは光合成と関係があるのかもしれません。嚢舌類は、動物としてはきわめて例外的に、海藻から葉緑体を取り込んで光合成をしています。頭部にも多くの葉緑体があるため、心臓がなくても酸素とエネルギーを得られると考えられます。その説を検証するために、光合成と自切の関係を調べる必要があります。
ウミウシの完全飼育
頭だけになったウミウシはこれまでもまれに目撃されていましたが、再生については知られていませんでした。その理由のひとつは、卵から成体までの完全飼育がウミウシでは困難だったことです。卵から生まれたプランクトン幼生は生存率が低いこと、大人になったときに餌とする海藻の安定的な培養が難しいことなどが原因です。これらの課題を乗り越え完全飼育が確立されたため、ウミウシの一生を観察することが可能になりました。その結果、ウミウシの大規模な自切と再生が発見され、詳しい研究が進められています。
参考資料
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奈良女子大学 理学部 化学生物環境学科 教授 遊佐 陽一 先生
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