未知の生物から、カビに効く未知の化合物を探し出せ!
天然化合物の底知れぬ力
自然界の微生物や植物、海洋生物などが作り出す天然化合物の中には、強い「生物活性(生体への作用)」を持つものがあります。アオカビが作る抗生物質のペニシリンはその代表で、今もほかに新たな抗生物質や抗がん剤になるような化合物が探索されています。このような化合物の発見は医薬品や農薬の開発につながるとともに、その化合物が生物に及ぼす作用を解析することで、生命原理の解明にも役立つと考えられます。
生命現象を解き明かす
病原性の強いカビ(真菌)は致死率が30~80%におよび、毎年世界中で数百万単位の人の死因となっています。カビは人と同じ真核生物であるため、カビだけに作用する抗真菌剤を作るのは容易ではなく、効果的な抗真菌剤は多くありません。そこで、抗真菌活性のある天然化合物の探索が行われています。
これまでの研究で見つかったものの1つに、海綿の体内に共生する微生物由来の「セオネラミド」があります。セオネラミドを真菌のモデル生物である分裂酵母に与えると、細胞膜にあるエルゴステロールという脂質に結合して殺菌すること、また、細胞壁の合成に異常が生じることがわかりました。このことから、エルゴステロールには細胞壁合成を制御する働きがあると考えられて、そのメカニズムが解析されています。
未知の生物から抗真菌物質を探す
セオネラミドは人の細胞膜にあるコレステロールにも結合して細胞膜の流動性に異常をもたらしてしまうため、残念ながら抗真菌剤としての応用は難しそうですが、セオネラミドに蛍光色素をつけることで、コレステロールの「分布を可視化するツール」としての利用が進められています。
毎年見つかる多くの化合物についての新規性は低下傾向にありますが、新しい生物を探せば新しい化合物も見つかると期待されています。そのため、研究例が限られている海洋環境を対象にしたり、これまでになかった培養条件を試みるなどして、いまだ培養されていない新しい微生物の探索が進められています。
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先生情報 / 大学情報
広島大学 生物生産学部 生物生産学科 教授 西村 慎一 先生
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