手術が成功しても安心するのはまだ早い? 術後せん妄を防ぐには
手術後に起こる「せん妄」
全身麻酔下での長時間手術や侵襲が大きい手術の後に、術後せん妄という症状が起こる場合があります。術後に暴れたり、逆に感情を表に出せずじっと閉じこもってしまうなど意思疎通が難しくなる症状で、特に後者は気づかれにくいため、見逃されてしまうこともあります。術後せん妄を放置しておくと、認知機能障害に発展する可能性があります。術後せん妄や認知機能障害になると入院期間が延び、医療現場の労力も増えるため、予防や早期発見する方法が求められています。術後せん妄は、脳のバリア機能が低下している高齢者に多くみられます。日本では超高齢社会が今後も進みますので、対策を研究する重要性が増しています。
手術の前から対策が必要
術後せん妄患者の脳波や血液などの解析の結果、手術の前から原因がある可能性が分かりました。そこで海外では、「プレハビリテーション」が行われています。これは手術前から行うリハビリのようなものです。特に運動をしっかり行うと術後せん妄になる確率が下がることがわかってきました。ただし術後せん妄が多い高齢者は、膝、股関節、腰の問題、心臓や肺の問題で運動が難しい場合が多くあります。この問題解決のために、VRを利用して運動と同じような効果を得るプレハビリテーションの研究が進行中です。VRの効果や高齢者でも無理のない運動量など、今後の研究に期待が集まっています。
術後せん妄の予測をする
もし手術前から術後せん妄になりやすい患者がわかっていれば、医療体制を整えておくことが可能です。予測のためにデータサイエンスと医療を組み合わせた研究もスタートしています。日本では病院での電子化が進み、日々の問診や検査結果をはじめとする診療情報の収集や分析がしやすくなりました。現在、政府が進めているソサエティ5.0においては、診療情報をAIに与えてモデルを作れば、術後せん妄になる可能性の高い患者を事前に見つけ、電子カルテ上にアラートを付けることができるかもしれません。
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弘前大学 医学部 医学科 教授 廣田 和美 先生
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