仲良く生きるために植物に尽くす微生物

仲良く生きるために植物に尽くす微生物

植物と微生物の関係

植物の病気において、原因として最も多いのが微生物の感染によるものです。そのため、植物は微生物を感知すると撃退して排除しようとします。逆に微生物は、何とか植物の中に入り込もうと巧妙に攻撃をかわします。ただし、植物と微生物の関係はこのような敵対的なものばかりではありません。植物と共存して、植物を助ける役割を持った微生物もいます。

共存する微生物

健康に生育しているイネ科牧草の内部を顕微鏡で観察すると、微生物であるカビが細胞の隙間を縫うように入り込んでいることがあります。これはエンドファイトという微生物の一種であり、植物の中で邪魔にならないように生育しています。病気を引き起こす微生物が植物の中に入ると、一気に増殖して植物から栄養を奪うのに対して、エンドファイトは増えすぎないように生育をコントロールし、植物にストレスを与えないように暮らしています。植物へ害虫や病原菌が攻撃してきた時には、エンドファイトは植物を守るための耐虫性の物質や抗菌作用のある代謝物を作り出して撃退します。植物が死んでしまえば、自分の身も危なくなるからです。そして、植物が種を作ると、自分もその種の中に入り込み、植物と一緒に繁殖します。

植物を守る物質を作るための遺伝子を探せ

エンドファイトはどのような遺伝子の働きで植物と友好な共存関係を築いているのか? 植物を守るために生成するさまざまな代謝物は、どの遺伝子の働きで作られているのか? といった研究が進められています。例えば約1万個あるエンドファイトの遺伝子の中で、1つの代謝物の生成に必要な遺伝子はおおよそ2~8個ほどと推定されます。それら遺伝子が特定できれば、植物を守る代謝物を大量に生成する技術の開発にもつながるでしょう。
現在、ニュージーランドなどではエンドファイトの入った牧草が使われ農薬の使用が抑えられています。エンドファイトと植物の共存の秘密が詳しく解き明かされれば、さらにその仕組みを農業に応用できるようになるかもしれません。

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名古屋大学 農学部 資源生物科学科 植物病理学研究室 教授 竹本 大吾 先生

名古屋大学 農学部 資源生物科学科 植物病理学研究室 教授 竹本 大吾 先生

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農学、植物病理学、微生物学、分子生物学

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メッセージ

今の世の中はさまざまなことが解明しつくされていると思っている人も多いかもしれません。しかし、植物病理学をはじめ、ほとんどの研究分野では、解明できていないことの方が圧倒的に多いのです。ですから、大学に入って研究を始めると、世界で初めてという新しい発見の可能性はたくさんあります。高校では、教科書に書いてあるわかり切ったことを勉強するだけですが、大学に入ると新しい発見ができる立場に変わるのです。ぜひワクワクした気持ちで、研究を楽しみに大学に来てください。

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