動けない植物の生きる知恵「フラボノイド」
人に役立つアントシアニン
「アントシアニン」は、植物の花や果実などに含まれる有機化合物群「フラボノイド」の仲間で、赤〜紫〜青色の天然色素です。ストレスや紫外線によって人間の体内に活性酸素が蓄積すると疲労や病気の原因となりますが、アントシアニンには活性酸素を抑える抗酸化作用があり、サプリメントなどに広く利用されています。
コミュニケーションの手段に
植物は春になると新しい葉が芽吹きますが、中には新芽の時期だけ葉が赤いものがあります。これは、若くて弱い葉を強い紫外線から守るように、アントシアニンを蓄積しているからです。植物自身も、アントシアニンを利用しているのです。
そして、アントシアニンの利用にはもう一つの側面があります。海岸の砂浜に茎をはわせる多年草のハ マベンケイソウは、開花中の花が赤紫色から青紫色に変化します。花を観察していると、ハナバチの仲間が訪れて受粉の手助けをしている様子が見られます。ハチなどの昆虫にも色を見分ける 能力があるため、ハマベンケイソウは古い青紫色の花を残すことで遠くからでもお花畑があるように演出し、近くでは花粉や蜜の多い若い花を赤紫色にすることで、受粉の効率を挙げているのです。このようにアントシアニンは花と昆虫とのコミュ ニケーションを担っています 。
新たな発見の可能性
植物はそこを動くことはできないため、厳しい環境にもそのまま耐えなければならず、声や身ぶりでコミュニケーションを取ることもできません。そこで植物が生み出した知恵が、アントシアニンをはじめとするフラボノイドの合成です。
植物だけでなく、人間も植物のフラボノイドを利用しています。近年では分析によって、さまざまな植物のフラボノイドが化学的に解明されてきました。一方で、地上には約47万種もの被子植物が存在しており、解き明かされている植物はほんの一握りにしか過ぎません。これまで取り上げられなかった植物を分析することで、より人間に有用な新たなフラボノイドが発見される可能性を秘めています。
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