百花繚乱タンパク質の世界 ~強くて賢くて優しいシャペロニンの話~

百花繚乱タンパク質の世界 ~強くて賢くて優しいシャペロニンの話~

生命活動を担うタンパク質の構造と機能

タンパク質は、組織の構成要素であるだけでなく、遺伝子発現や免疫系など複雑な生命活動を担っています。タンパク質の正しい機能のためには各タンパク質が固有の構造を形成しなければなりません。しかし、熱などのストレスでタンパク質の構造は壊れて、変性してしまいます。変性タンパク質は、細胞中で凝集し、アルツハイマー病のような疾病の原因にもなります。変性タンパク質を見つけて構造を再生する(フォールディング)役割を担うタンパク質群のことを分子シャペロンとよびます。

細胞社会の品質管理をするシャペロニン

分子シャペロンは、細胞を高温にさらした時に誘導される熱ショックタンパク質として発見され、その代表格がシャペロニンです。シャペロニンは、15nmほどの大きさで、中に空洞があるダブルリング構造をしています。変性タンパク質は空洞内に落し込まれてフォールディングし、ATPの加水分解にかかる8秒の後に放出されます。細胞内に変性タンパク質が多いときは2つのリングを同時に稼働させ、あまり多くない場合は交互に働かせることもわかりました。ナノサイズの小さな分子が、状況を認識・判断して働き方を変えているのですから、シャペロニンは時計仕掛けの精巧なタンパク質性分子装置といえます。

複雑な分子の反応から生命の未知を解き明かす

単純な原始の生物が少しずつ変化し人間へと進化する過程は、生命活動を担うタンパク質の分子進化の過程と言えます。細胞内でシャペロニン依存的に構造形成を介助されるタンパク質を調べた結果、進化の過程で変異により生まれた「構造が不安定でフォールディングできないタンパク質」が、生物がシャペロニンをもつことで構造形成できるようになり機能するようになったという学説へと導きました。分子の機能を研究することは、生物の成り立ちを辿り、生命活動を理解し、疾病の原因を解明するのはもちろんですが、生体分子を模倣して今ない機能性素材を人工的に作るときのアイデアにもつながります。

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神奈川工科大学 工学部 応用化学生物学科  教授 小池 あゆみ 先生

神奈川工科大学工学部 応用化学生物学科 教授小池 あゆみ 先生

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生物工学、タンパク質工学、分子生物学

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メッセージ

高校時代は理科の科目が物理・化学・生物に分かれていますが、大学に入るとサイエンスとして全体が融合していくことに気付くでしょう。科目の境界にとらわれず、おもしろいと思ったものを追求していったらきっと、自分の興味の根源が見えてきます。真面目にコツコツと勉強して築いた知識の土台の上で、好奇心のままに広げたり深めたりすることにも積極的であってください。時には「やんちゃ」と思えるくらいに突拍子もない発想を、試行錯誤し、仲間と楽しく議論することは、研究や学問の発展につながるはずです。

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