地域を潤しながら、水害を防ぐには
農業水利システムとは
日本各地の農業が盛んな地域では、川やため池から水を引いて地域の水田や畑に効果的に供給するための農業水利システムが整備されています。水の効率的な利用を図るために、水路やため池、堰、ポンプなどの多様な設備が、地域の特性に合わせて組み合わされています。しかし、近年の地球温暖化に伴う気候変動は、これらの農業水利システムの利用に大きな影響を及ぼしています。
流域治水と田んぼダム
これまでは、治水ダムや堤防などの施設の整備によって水害を防ごうとしてきました。しかし、線状降水帯の発生など集中的な豪雨が頻発するようになり、想定の雨量を超える事態となっています。そのため、これまでに整備された施設だけでは安全を確保できなくなっているのです。
そこで、「流域治水」への転換が提唱されています。これは、気候変動の影響を考慮し流域全体のあらゆる関係者や場所で防災対策を検討していく治水の新しい考え方です。ダム以外の場所にも水を蓄える施設を確保しながら、水害の危険のある地域への居住を減らすなどの対策を組み合わせて、被害を最小限に抑えます。これを農業水利システムに適用すると、水田も水を蓄える能力がある「田んぼダム」として活用できます。大雨の際には、水田に一時的に多くの水をためることで、下流への急激な流出を抑えられるのです。地域によっては水田の面積が非常に広いことから、大きな威力を発揮できると期待されています。
最先端技術も活用
現在は、気候変動の影響を踏まえた将来の気象予測データが公開されています。それを地域の水の流れのシミュレーションモデルに組み込んで、地域への影響を詳細に分析し、農業水利システムの合理的な管理が検討されています。また地方においては、人口減少が著しくなる中で、少ない人手で地域に住む人々の安全を守り続けることが求められます。そのためには、AIやICTなどの最先端技術を活用しつつ、高度な省力化や効率化を推進し、限られた人手でも安全を確保できるシステムを構築することが重要です。
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先生情報 / 大学情報
石川県立大学 生物資源環境学部 環境科学科 准教授 長野 峻介 先生
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水利システム学、農業工学、環境科学先生が目指すSDGs
先生への質問
- 先輩たちはどんな仕事に携わっているの?