昆虫の生態から、環境を知り、生命の謎に迫る

昆虫の生態から、環境を知り、生命の謎に迫る

幼虫の時期に決まるクワガタムシの一生

立派なツノ(正確には顎)が人気のクワガタムシには、同じ種なのにツノの大きな個体と、ツノも身体も小さな個体とが存在します。十分な餌がある場所で育った幼虫は、闘争によって生き残るのに有利な大きな成虫となり、十分な餌を得られなかった幼虫は、小さく闘争をあきらめたかのような形になります。どちらのタイプとして生きるかの「スイッチ」が、幼虫期の生育環境によって切り替わるわけです。このように、昆虫は生育した環境条件に応じて形を変えることがあるのです。

環境によって切り替わるスイッチ

日本には明瞭な四季がありますが、南方(熱帯や亜熱帯)には環境の季節的変化がほとんどない地域もあります。南九州地方では、しばしば熱帯や亜熱帯から侵入した害虫が問題になります。これらの昆虫は、冬でも暖かい南方に適応した生態をもつため、南九州に定着できるかどうかはわかりません。この原因の一つは、通常の昆虫が持っている環境の季節的変化を日長の季節的変化から予測して夏モードから冬モードに形を変えるシステムを南方性昆虫は進化させていないことです。
昆虫の体内には、たくさんの種類の微生物が暮らしており、宿主の昆虫が持っていない機能を昆虫に提供しています。しかし、このような微生物の中に突然変異を起こして宿主のオスとメスの比率(性比)をメスばかりに偏るような操作をするようなものが出てきました。ここでも、昆虫の個体における性を決定しているスイッチが環境(微生物への感染)によって切り替えられたわけです。

ヒトの研究とのつながり

昆虫もヒトも、環境情報は神経や脳で伝達・処理され、それがホルモンを介してスイッチ(遺伝子)に働きかけ、その結果として形が変わると言えます。つまり、昆虫を研究することでヒトに役立つことは少なくありません。例えば、ヒトと昆虫に共通の仕組みがあるけれど、ヒトでは研究できない場合、昆虫を使ってわかったことがほとんどそのままヒトにも当てはまり、病気の原因の解明に役立てられることがあるのです。

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南九州大学 環境園芸学部 環境園芸学科 教授 新谷 喜紀 先生

南九州大学 環境園芸学部 環境園芸学科 教授 新谷 喜紀 先生

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昆虫学、昆虫生態学、応用昆虫学、生物学

メッセージ

昆虫の研究は、単に「虫」のことを知るためだけのものではありません。昆虫の生態を通じて、生物と環境との関わりや、生命の進化にまで迫れるのです。つまり、昆虫は環境の変化が生物に及ぼす影響を考えるうえで良い材料となっています。もしもあなたが、この分野の研究に興味があるなら、理系科目、特に生物をしっかり学ぶようにしてください。そして、野外にいるときには、いろいろな生き物の様子を観察してみましょう。温暖化が進む今、私たちの身の回りの生態系も徐々に変化しています。そのことに気づくだけでも、大きな収穫です。

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