公共政策の基礎づくりのための統計分析
ランダム化という統計手法の原則
社会統計におけるランダム化(無作為化)という考え方を聞いたことがありますか。例えばアンケート調査で質問票が送られてくるとき、「無作為抽出で調査対象に選ばれた」という説明があります。また、新しい薬の効果を測定するときにも、新しい薬を処方する患者と、従来の薬を処方する患者をそれぞれランダムに選び、新しい薬が好ましいことを確認するランダム化比較実験が義務付けられています。理由は、どんな特徴を持った人も、同じ確率でサンプルに入ったり、同じ確率で薬をもらったりするので、「かたより」のない統計結果を得られるから、と教えられています。
ランダム化という意思決定論の謎
経済学では、人々がそれぞれのめざすものを最もよく達成できるように選択するという仮定のもと、意思決定を数理モデルで分析します。この数理モデルにおいては、このランダム化をうまく説明できません。なぜなら、誰をアンケート調査するか決めるとき、状況があまりよくわかっていないけれど重要な人たちを調査することが望ましく、また誰に新しい薬を試すか決めるとき、薬の効果をあまり理解できていないような属性に実験的試行をすることが望ましいからです。英語で"that decision is so random!"というとき、これは「何も考えないでテキトーに決めているだけ」という意味です。
ランダム化を公共政策の中に位置づける
「ビジネス」では経済活動を通じて生活を豊かにすることを、「政治」では議論と委託を通じて社会の合意を得て決めていくことをめざしますが、「学問」は何をめざすのでしょうか。応用研究では有用性をめざしますが、基礎研究では理解の体系の一貫性をめざすと言えるでしょう。ランダム化のように歴史が100年近くある根本的原理であっても、実は、その実用上の根拠を今日も理解できていません。現在は、その理由を「誰にも反論できない結論を得る」「誰にも簡単に理解できる結論を得る」などで説明できないか、という理論研究が進められています。
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先生情報 / 大学情報
横浜国立大学 経済学部 国際社会科学研究院 准教授 古川 知志雄 先生
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