行動経済学:人って面白い! 他者の期待に応えたい脳・性別・文化
期待に背くと罪悪感にかられる
試合後のインタビューで「期待を裏切って申し訳ない」と話すスポーツ選手がいます。また、地元に残ってほしいという親の言葉によって都会に出るのを諦める人もいます。これらの背景には、人は相手の期待を裏切り傷つけることに罪悪感を覚えるため、自ずと期待に応えるようとする心理的なメカニズムがあります。これは「罪悪感回避行動」と呼ばれています。
メカニズムを理解する
罪悪感回避行動は脳のどこで実行されるのでしょうか? 脳の神経活動を計測するfMRI装置の中で、被験者に罪悪感が生じる課題に取り組んでもらった実験があります。経済学では、人の意思決定を計算モデル(評価関数)として記述するため、罪悪感を定量的な数値として表現できます。罪悪感の数値と神経活動の関連性を調べた結果、右側の前頭葉が反応を示しました。ここは進化的に新しい脳の部位なので、罪回避行動は他の動物にはない人らしい行動だといえます。
さらに男女の違いを調べたところ、男性の方が罪悪感回避行動をしやすいことがわかりました。この傾向は、日本以外の2カ国でも確認されたため、日本人に限らず人に共通した特性かもしれません。この性差を理解するための脳の調査では、男性にだけ反応する前頭葉のネットワークが存在するためだとわかりました。さらに性格特性テストを含むビッグデータの解析から、男性は社会規範に従い罪悪感回避行動を起こすことがわかりました。
罪悪感回避行動を社会へ活用
このような罪悪感回避行動のメカニズムを社会課題の解決に活かせないでしょうか? 一つの方法は「ナッジ」への活用です。ナッジとは、人のクセを利用して行動変容を促す手法です。例えばコロナ禍ではマスク着用を促進するために、人の利他心というクセを利用して「周りの人を守るためにもマスクをしましょう」と呼び掛けられました。罪悪感回避行動というクセを利用したナッジを確立することで、寄付、環境保全、省エネの促進など、その応用範囲は広がるはずです。人の行動研究は興味深いものです。
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大阪経済大学 経済学部 経済学科 教授 二本杉 剛 先生
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