シミュレーション天文学で土星の環(わ)の謎を解く
科学の新しい研究方法
観測結果と理論を比較して物事の理解を深めるのは、伝統的な科学の研究手法です。しかし、実際の観測データが限定的で実験もできない宇宙の分野では、コンピュータで再現された研究対象を観測し分析するシミュレーション科学の手法が取り入れられるようになりました。例えば、土星探査機カッシーニの観測で新たに見つかった土星の環のさまざまな構造について、その形成やメカニズムをシミュレーションで解明する研究が行われています。
土星の環のプロペラ構造を解明
その一つが土星の環にみられる「プロペラ構造」の研究です。カッシーニの撮った画像から、土星の環を構成する粒子がプロペラに似た形の隙間を作っている箇所がたくさん見つかりました。プロペラ構造ができるのは、環の中に直径数百メートルから数キロメートルほどの小衛星が埋まっており、その重力の影響によるものであるという仮説が立てられていますが、衛星が小さいため視覚的には確認できません。そこでシミュレーションを用いて、小衛星の存在がプロペラ構造を作ることが確かめられました。同時に、小衛星が存在しても粒子の密度が高いとプロペラ構造ができないことも証明できました。また、環を構成する粒子は、均等に分布するのではなく「ウェイク構造」という網の目のような構造をとっていることも示されています。
シミュレーションモデルの構築
シミュレーションモデルの構築は、小衛星のサイズや粒子のサイズ・数などの分析対象の状況を仮定するところからはじめます。それらのパラメータ(変数)が決まれば物理法則に基づいて方程式を立て、それを解くプログラムを作ってシミュレーションを行います。小衛星のサイズなど未知のパラメータを調整し、観測結果に近くなるようなモデルを構築します。宇宙には太陽系や銀河系など円盤状の天体が数多くあるため、比較的地球に近く観測しやすい土星の環を解析することは、さまざまな円盤状の天体に関する普遍的な理解につながると考えられます。
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先生情報 / 大学情報
京都女子大学 データサイエンス学部 データサイエンス学科 准教授 道越 秀吾 先生
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