「音楽」と「政治」の意外な関係
フランスの音楽とドイツの音楽
音楽と政治という、縁がなさそうなこの2つは、実はどの時代や地域においても大きな関わりを持ちます。例として19世紀後半から20世紀前半の西ヨーロッパをみてみましょう。フランス革命以前には教養のある貴族のもとで栄えた音楽が、次第に大衆へと聴衆層を広げると、フランスのパリを中心に派手で快楽主義的な音楽が好まれるようになります。一方で、同じ頃ドイツでは、シューマンやワーグナーに代表される「ロマンチックで重厚な」クラシック音楽が出現していました。さらにドイツでは、バッハやベートーヴェンといった自国の巨匠の作品を後世に伝え残し、音楽を高尚で哲学的なものと見なそうとしました。これらの動きは、「文化でドイツという国家を統一しよう」という動きの一環でもありました。
普仏戦争とサン=サーンス
1870~71年の普仏戦争では、フランスがドイツに敗北します。このとき、フランスの音楽界で立ち上がったのが、『白鳥』でおなじみのサン=サーンスです。1871年、当時の作曲家たちは、フランス国家の救済に貢献しようと、パリで「国民音楽協会」を設立しました。ドイツに倣い「真面目で高尚な音楽」を作って普及させることで「快楽主義に陥り没落したフランス」を立て直そうとしたのです。その発起人の一人だったサン=サーンスは、協会が頻繁に開催した演奏会に、当初最も多く作品を提供しました。
『ボレロ』誕生の背景
さて、今日吹奏楽でも演奏される『ボレロ』は、サン=サーンスの孫弟子であるラヴェルが1928年に作曲したバレエ音楽です。2種類の旋律を機械的に繰り返すこの曲に、音楽で表現される「物語(ロマン)」はありません。1918年に終結した第一次世界大戦の傷跡で人々が既存の価値観を問い直す中、フランス音楽界ではドイツで発達した「ロマンチックで重厚な」音楽からの脱却が意識されるようになります。『ボレロ』は、こうした機運の下で生まれた「新しい価値観の音楽」だったのです。
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先生情報 / 大学情報
京都女子大学 発達教育学部 教育学科 教授 田崎 直美 先生
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