経営者へのアメとムチ 会社の発展を後押しする法制度とは
経営者の責任を追及する「株主代表訴訟」
会社の事業で“失敗”したとき、株主が会社に代わって経営者の責任を追及し損害賠償を請求する「株主代表訴訟」という制度があります。最近では、東日本大震災での東京電力福島第一原子力発電所の事故に関する株主代表訴訟で、東京地裁において旧経営陣に13兆円あまりの賠償を命じる判決が下されました。株主代表訴訟では経営者の裁量を尊重することが多く、責任を積極的に認めることが少なかったため、判決は金額の大きさとともに大きく報じられました。
裁判所はどう判断する?
裁判では何をもって経営者の責任の有無を判断するのでしょうか。損失には経営者が明らかにおかしなことをして出したものもあれば、新しい事業などにチャレンジして最善を尽くした結果として出たものもあります。裁判官は、経営者の判断の経緯を当事者の提出した証拠に基づいて追跡し、「あのときこうすべきだった」という後知恵を排除した公正な視点で事実確認をし、経営者が注意義務を怠ったか否かを判断します。これまでの議論や先例の積み重ねを踏まえて判決文を分析し、裁判所はどのように責任の有無を判断したのか、その判断が適切なのかを検証するのは商法研究者の重要な仕事です。
会社の発展を後押しするために
経営者がおかしなことをしたり、努力を怠ったりしないよう、法で規律づけることは重要です。一方で、失敗に対して制裁を科してばかりだと、経営者は失敗を恐れて萎縮し、チャレンジをやめてしまいます。経営者のチャレンジなしに企業の成功も経済の発展もありません。そこで求められるのが「経営者のチャレンジを後押しする法制度の提案」につながるような研究です。例えば、会社の株価が上がることで経営者が利益を得る「ストックオプション」のような制度は、経営者のチャレンジを促す「アメ」として機能します。「最善を尽くして会社の業績を向上させ、利益を株主に還元する」ことが、経営者の役割です。それを最大限に果たせるような法制度が、日本の経済発展に寄与していくのです。
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先生情報 / 大学情報
東京都立大学 法学部 法学科 法律学コース 教授 尾崎 悠一 先生
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