グローバル化の先を行く華僑・華人の文化
フィリピンの商業都市・セブ
フィリピン中部・ビサヤ地方に位置するセブ市は、ミンダナオ島などへの流通拠点となる商業都市です。16世紀から19世紀にかけてのスペインによる植民地時代や20世紀初頭には、福建省から中国の人々が移民としてやってきました。
宣教師の住居跡から出てきたものとは
中国系移民のうち、19世紀以前にセブにやってきた中国人は、セブの人々と混血し、中国系メスティソと呼ばれるようになりました。かつてメスティソの居住区であった地区にあるスペイン植民地時代のキリスト教宣教師の住居跡を調査すると、意外なものが出てきました。それは、チョコレートドリンク(ココア)を飲む専用カップです。しかもそのカップは、17世紀後半に作られた日本の磁器・有田焼でした。当時鎖国をしていた日本とフィリピンの間で交易が行われていたのです。中国系メスティソとキリスト教の結びつきは深く、彼らがこの交易の一端を担っていたことは間違いないでしょう。メキシコ原産のチョコレートは、アジアではまずフィリピンに伝わりました。今や誰もが気軽に口にするお菓子がどのように伝播していったのか、引き続き調査が進められています。
メスティソの文化を再興する
華僑・華人(中国系の人々)の社会は、しばしば中国人の文化・特性をそのまま当てはめて説明されてきました。しかし実際には、中国大陸の文化とはかなり異なっています。新しく移民としてやってきた中国人に出会うと、彼ら自身も商習慣など文化の違いに驚くと言います。近年彼らの間で、かつてのメスティソの文化を自らに生き方に重ねあわせながら、独自の文化として後世に残そうという動きが盛んになってきています。彼らは中国文化を受け継ぎながらも、変化を受け入れ現地化することで、うまく移民先に溶け込んできました。グローバル化が加速する現代では、異なる文化を持つ人々の対立が起きています。もしかしたら、中国系フィリピン人の文化の変容を探ることが、争いを解決するヒントになるかもしれません。
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