情報工学で「糖鎖」研究を強力サポート!
細胞の表面を覆う第3の生命鎖
細胞には、核酸、タンパク質のほかにもう一つ、生命活動に重要な役割を果たしている「鎖」があります。単糖が鎖状につながった「糖鎖」です。糖鎖のほとんどは細胞の表面に存在しており、電子顕微鏡で見ると糖鎖が森のように細胞表面に密集しているのがわかります。糖鎖の役割の一つは細胞の識別で、糖鎖構造は細胞の種類によって異なります。私たちが使っているABO式の血液型も、赤血球表面の糖鎖の違いによる分類です。また、細胞ががん化すると糖鎖が変化することも知られています。
糖鎖は構造の多様さや複雑さから核酸やタンパク質に比べて研究が遅れているため、糖鎖情報を収集して解析するための基盤づくりが進められています。
糖鎖研究をサポートする基盤の整備
糖鎖のデータベースはその一例で、研究者が解析した糖鎖構造を登録するとその一つ一つに識別番号が割り振られるシステムです。このようなデータベースを含めて、糖鎖に関連するさまざまな情報を統合した糖鎖科学ポータルも構築されており、研究者が自由に糖鎖関連の情報にアクセスできる環境が整いつつあります。
また、ヒトの全糖鎖構造の解明をめざす「ヒューマングライコームプロジェクト」が始まり、ヒトの糖鎖の精密な解析や、疾患との関連を調べる研究が計画されています。この研究では、10年に渡って22万人の患者などの血液や臓器を調べるため、その膨大なデータを処理するためのツール開発も必要です。
完璧なデジタルツインをめざす
現在はデータの整理も進んでおり、機械学習で使える「きれいなデータ」がそろってきました。そこから情報を抽出して、新発見も期待されます。この複雑な糖鎖を精密に解析することで、究極的には細胞の各糖鎖を忠実にコンピュータ上に再現できるようになります。さらに、各々の糖鎖が環境に応じて変化して作られる過程も理解できるようになり、またすべての細胞類に対しても情報が収集されれば、「完璧な個体」のデジタルツインの完成が可能になります。それを目標とされています。
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先生情報 / 大学情報
創価大学 理工学部 情報システム工学科 教授 木下 フローラ聖子 先生
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先生への質問
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