放射線治療に役立つ安価でエコな線量計は「スライム」!
放射線治療機器を扱うハードル
がん治療では、体に負担のかかる外科手術ができない場合、放射線でがん細胞を退治する放射線治療が行われます。最近では放射線治療機器も性能が上がり、コンパクトになってきたため、規模が小さい病院にも普及してきました。
しかし、患部に正確に放射線を当てるには、放射線量を測ってその数値を見ながら位置や放射線量を調整するなど、機器を扱う専門的な知識と技術、経験が必要です。そのため医療現場では、熟練者でなくても機器が扱えるように、そうした技術的なハードルを下げることが求められてきました。
放射線を測るスライム!?
そこで開発されたのが、「PVA-KIゲル線量計」です。洗濯のりにも使われているポリビニルアルコール(PVA)という安価な物質が主原料で、ホウ砂という鉱物を加えるとゆるく固まり、スライムのようになります。そこにヨウ化カリウム(KI)を入れることで、放射線を当てると赤く変色します。これは、放射線照射によりヨウ化カリウムからポリヨウ素イオン(I₃⁻)が生まれ、PVAに含まれる酢酸基と結びつくと発色するのです。さらに、果糖を加えることで、50℃程度の熱を加えると無色に戻るという画期的な機能が生まれました。
ひと目でわかる、繰り返し使える
この「スライム線量計」は、人体と同じく約70%以上が水であり、様々な形状を自由につくれるので、より人体に近いものでの試験ができます。また、色で判断できるため、医療機器に詳しくない人でも正しく照射できているかがひと目でわかります。熱で無色に戻るので繰り返し使うことができ、医療廃棄物を減らせるメリットもあります。さらに、人体にとって安全な物質でできているので、手軽に扱うことができることも優れた点です。
近い将来、このゲル線量計が普及すれば、街の小規模な病院でも放射線治療が受けられる日が来るかもしれません。また、原子力発電所の廃棄物の問題や、汚染された土壌の除染などにも、こうしたゲル線量計が応用できると期待されています。
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