今日なに食べる、を数式で考える
意思決定を数式で表す
今日は何を食べようかとか、どの道から行こうかといった考えや行動は、脳内の意思決定のシステムによってもたらされます。問題を解決するために考えられる選択肢の中から最適だと思えるものを選んでいるのです。この時の脳中の動きは、数式で表すことができます。
経験により意思決定を決める強化学習
例えば、AとBという2つのレストランがあって、あなたはいつもどちらかで食事をしなければならないとします。一番簡単なのは、まず無作為にどちらかのレストランに行ってみることです。食べてみて、おいしかったら次もそこを選ぶし、気に入らなかったら次は違う方の店に行くでしょう。これは強化学習という非常に単純な行動で、人間だけでなく、さまざまな動物も行っています。このようなことだけでなく、「投資によりバブルで大損をした世代と、その後に株価が上がって得をした世代とでは投資への価値観が違う」というような事象も強化学習の理論で説明できるかもしれません。現在ではAIにも広く応用されており、囲碁でプロに勝ったAIの根本にあるのも経験から学ぶ強化学習のアルゴリズムです。
情報処理の原理から精神疾患を考える
強化学習は、行動で得られた結果が予想より良い場合は価値を上げ、悪い場合は価値を下げるといった方法で数式に表しています。しかし時に人間は、強化学習の数式に当てはまらない行動を取ることがあります。例えば、ギャンブル依存症の患者は、通常なら賭けに負けて損をすればギャンブルの価値が下がるはずなのに、負けても行動は変わりません。失敗から学習する機能が抜け落ちてしまい、得をした価値ばかりが上がり続けるといった強化学習の暴走により、ギャンブル依存症に陥ると考えられます。
このように、データサイエンスの手法を用いながら情報処理の枠組みを精神疾患に応用する学問を、計算論的精神医学と呼びます。その成果をAIにも応用するというように、精神医学と情報処理とが相互に発展する可能性を秘めています。
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先生情報 / 大学情報
一橋大学 ソーシャル・データサイエンス学部 ソーシャル・データサイエンス学科 教授 鈴木 真介 先生
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