科学者と機械学習の協業をめざして
人間の洞察力が科学を発展させるが
ジェームズ・ワットによって熱機関が開発された後、科学者はその原理を解明して性能を向上させるために熱力学の構築を始めました。最初はボイル・シャルルの法則のような圧力や体積といった観測可能な物理量の内挿的モデル化から始まりました。科学者は、単なる特定現象の内挿モデル構築に留まらず、この宇宙であまねく成立するエントロピー増大の法則や、自由エネルギーといった原理・法則・概念を発見するに至りました。これによって、熱機関の理論であった熱力学が化学反応における新たな指針を予言し、ハーバー・ボッシュ法という化学肥料製造技術の開発に繋がりました。つまり、単なる内挿モデルを超えた一般原理(外挿モデル)の解明が、当時の大きな社会課題であった食料不足を解決したのです。一方で近年の科学の発展に欠かせない、高分子材料の構造形成や宇宙の大規模構造形成、人間・生物の群衆行動といった複雑現象では、人間の洞察だけではこの科学の成功ループを回せません。
内挿モデルの構築に機械学習を活用
近年、機械学習モデルを用いてそのような複雑な科学データの内挿モデルを構築する研究が活発に行われています。一方で機械学習は、原理的に与えられたデータの内挿モデル構築を得意としており、外挿モデルの発見は苦手としています。
機械学習と科学者をつなぐ
内挿モデル構築が得意な機械学習から解釈可能な情報を取り出し、外挿モデル構築が得意な人間に提供できれば、複雑現象の原理・法則を探索する科学者を支援する枠組みが実現できます。そこでは、二つのアプローチが研究されています。一つは深層ニューラルネットワーク(DNN)のような表現力の高い機械学習が作成したモデルから解釈可能な情報を抽出する方法で、学習済みのDNNから保存則のような物理法則を抽出する方法が開発されています。もう一つは、複雑構造を良く表現する特徴量を用いる方法で、位相的データ解析法等がその代表的な手法の一つです。さらに二つのアプローチを融合させる研究もあります。
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先生情報 / 大学情報
一橋大学 ソーシャル・データサイエンス学部 ソーシャル・データサイエンス学科 准教授 本武 陽一 先生
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データ駆動科学、物理学、情報科学先生が目指すSDGs
先生への質問
- 先輩たちはどんな仕事に携わっているの?