講義No.10227 数学

次元を超えて図形の本質を知る、トポロジーの奥深い世界

次元を超えて図形の本質を知る、トポロジーの奥深い世界

図形の本質に迫る学問

図形を研究する数学分野は幾何学ですが、幾何学はトポロジー(位相幾何学)や微分幾何学などの専門に分かれます。トポロジーとは何かを説明する際によく示される例に、ドーナッツとコーヒーカップの表面があります。見た目が大きく異なる2つの曲面ですが、薄いゴムのように自由に伸び縮みさせられる(ただし、千切ったり穴を空けたり2点をくっつけたりはできない)として、両者は同じ曲面であるとみなすのがトポロジーの考え方です。曲面の表面積や曲がり具合のような定量的な基準によらない、図形の定性的な本質に迫る学問がトポロジーなのです。

偉大なトポロジスト(位相幾何学者)たち

トポロジーの歴史は1700年代のオイラーにさかのぼり、1900年前後のポアンカレの研究により1つの分野として確立しました。ポアンカレは1904年に後にポアンカレ予想と呼ばれる3次元のトポロジーの難問を提示しました。その後、1982年にサーストンがポアンカレ予想を大きく一般化した幾何化予想を提示し、3次元のトポロジーを牽引していきました。そして、2002〜2003年にペレルマンが幾何化予想を証明することによりポアンカレ予想を約100年後に解き明かしたのです。ペレルマンが証明に用いたのは物理学由来の微分幾何学的な手法であり、3次元のトポロジーの研究とはほぼ無縁であったことが多くのトポロジストを驚かせました。

4次元のトポロジー

物理学由来の手法は、4次元のトポロジーでは1980年代からなじみのあるものでした。4次元というと非現実的に感じるかもしれませんが、数学の世界では何次元でも記述できるものなら理論的な存在として研究対象になっています(例えば、正多面体は、3次元には5種類存在しますが、4次元では6種類、5次元以上では3種類になります)。座標空間の微分構造は、4次元以外では1つだけですが、4次元には(非加算)無限個存在することが証明されたのも、4次元のトポロジーが突出して物理学由来の微分積分と深く関係しているからでしょう。

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先生情報 / 大学情報

大阪大学 理学部 数学科 講師 菊池 和徳 先生

大阪大学 理学部 数学科 講師 菊池 和徳 先生

興味が湧いてきたら、この学問がオススメ!

幾何学、トポロジー

先生が目指すSDGs

メッセージ

大抵の高校生にとって数学は、問題も解き方も与えられ、見よう見まねで解きながら徐々に理解していくものでしょう。しかし、問題の解法パターンを暗記するだけでは、受験はクリアできても、大学での数学の学習や研究では通用しなくなってきます。
数学を学んでいると問題の意味や解き方の理屈に疑問を抱くことがあります。そういう疑問を自分で調べて考えたり、詳しい人に質問したりして解消していくような学び方を意識し習慣づけましょう。自分が抱いた疑問を自分で解決する姿勢にこそ、大学でも通用する数学の学び方の本質があるのです。

先生への質問

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自由な学風と進取の精神が伝統である大阪大学は、学術研究でも生命科学をはじめ各分野で多くの研究者が世界を舞台に活躍、阪大の名を高めています。その理由は、モットーである「地域に生き世界に伸びる」を忠実に実践してきたからです。阪大の特色は、この理念に全てが集約されています。また、大阪大学は、常に発展し続ける大学です。新たな試みに果敢に挑戦し、異質なものを迎え入れ、脱皮を繰り返すみずみずしい息吹がキャンパスに満ち溢れています。