海の生態系に何が?小さな藻の視点から解決策

海の生態系に何が?小さな藻の視点から解決策

食物連鎖の要は植物プランクトン

地球温暖化など環境の変化は海の生物にも影響を及ぼしています。特に食物連鎖の土台となる植物プランクトンへの影響は大きく、しかも食物連鎖の上位の生物(魚や貝)の劇的な変化につながります。その現状調査と解決策の提案・実行のための3つの取り組みを紹介します。
1つ目は瀬戸内海での取り組みです。瀬戸内海では、海への排水の浄化により海がきれいになりすぎて、植物プランクトンが増えないという問題が起こっています。その結果、食物連鎖が小さくなり、貝や魚などの漁獲量が減っています。海底付近には植物プランクトンのタネがあり、その増殖に必要な栄養が豊富にあるので、海底水を光が届く水深に巻き上げる装置を試作し、かきの養殖現場で使用しています。

世界への赤潮の拡散を防ぐ

植物プランクトンが増えすぎると困ることもあります。赤潮です。世界の国々に日本から赤潮の原因となるプランクトンが運ばれています。船の海水タンク(バラストタンク)によるこれら外来種の伝搬は世界的に大きな問題となっています。バラストタンクの生物を処理する装置の搭載が、全ての外航船舶に義務化される予定ですが、タンク内の生物が基準値以下に処理されたか調べる方法がありません。そこで企業と連携して、プランクトンが処理されたか簡単に調べる装置が作製されています。

貝を使ってサンゴを増やす

3つ目は沖縄のサンゴ礁です。温暖化でサンゴ礁が減っています。水温が高くなると、サンゴの共生藻である褐虫藻(かっちゅうそう)が減り、白化(はっか)と呼ばれる環境破壊を起こします。崩壊したサンゴ礁の復活には褐虫藻が必要ですが、サンゴ礁自体がなくなると褐虫藻が供給されず、サンゴの幼生も定着できなくなります。
ところがサンゴと同じように褐虫藻を持つシャコガイは、フンとして生きた褐虫藻を大量に排出し、その褐虫藻はサンゴの幼生に取り込まれます。この発見を生かして、シャコガイをたくさん育て、自然の力を生かした白化から回復しやすいサンゴ礁を作り出そうとしています。

※夢ナビ講義は各講師の見解にもとづく講義内容としてご理解ください。

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先生情報 / 大学情報

広島大学 生物生産学部 水圏統合科学プログラム 教授 小池 一彦 先生

広島大学 生物生産学部 水圏統合科学プログラム 教授 小池 一彦 先生

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海洋学、環境学

先生が目指すSDGs

メッセージ

私の研究はフィールドワークが中心です。海の生態系には本当にたくさんの要因が影響し、その複合結果として生態学的現象が現れます。海水の流れ(物理)や成分(化学)、気象、生物の遺伝子など、どれひとつ無視しても生態系を語ることはできません。
一つひとつの知識を各分野の専門家のように掘り下げる必要はありませんが、幅広い知識は必須です。また現場の人々の声を聞くためには、専門分野以外の知識やコミュニケーション術も必要です。高校生のうちに幅広い知識を身につけ、たくさんの人と話す機会を得てください。

先生への質問

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