講義No.14701 生物学

線虫から探る、ヒトはどう情報を処理して行動するのか

線虫から探る、ヒトはどう情報を処理して行動するのか

人間と線虫の情報処理は共通する

ヒトや動物は「情報」をどのように処理して行動を決めているのでしょう。その時、脳はどのように働いているのでしょうか。いま「C.エレガンス」という線虫を使って、脳の仕組みを解明する研究が進められています。
C.エレガンスの構造は比較的単純で、神経細胞は人間が約1000億なのに対して302しかありません。それらがどうつながっているのかも明らかになっています。さらに体が透明なので、染色などにより神経細胞で何が起きているのかもよくわかり、動きも単純です。それでいて、情報処理の仕組みは進化的に私たち人間と共通しており、研究のモデルとして好都合なのです。

におい、温度など刺激の組み合わせ

例えばC.エレガンスはにおいに反応して行動するので、いろいろなにおいを与えて、それによってどの神経細胞が働き、どう情報処理がされているのかを調べます。さらに、温度による刺激を与えるとどうなるかを調べます。C.エレガンスはそれまでに飼育されてきた環境の温度を好むため、そこに高低をつけた場合にどんな変化が現れるかなどを調べていくのです。
動物はいくつもの刺激を情報として脳の中で統合して複雑に行動するわけですが、その仕組みはよくわかっていません。におい、温度、光、音、味など複数の刺激の組み合わせをC.エレガンスに与えて得られた情報を蓄積することで、私たち人間の統合メカニズムも明らかになっていくと考えられます。

ヒトの脳の理解に役立つ可能性も

統合メカニズムが明らかになれば、例えば発達障害などの症状のコントロールに役立つでしょう。発達障害によく見られる「何かの刺激への強いこだわり」は、脳の中で統合のバランスが崩れている可能性が高いからです。さらに、研究の進展によっては、将来、「人間のこころはどのように形成されるのか」も明らかになるかもしれません。画期的な研究手法が生み出され、コンピュータやAIの技術がいま以上に発展すれば、それも夢ではないと考えられます。

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神戸大学 理学部 生物学科 講師 武石 明佳 先生

神戸大学 理学部 生物学科 講師 武石 明佳 先生

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神経科学

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嫌いや苦手な科目は誰しもあるものですが、点数が取れなくてもいいのでしっかり勉強することが大切です。苦手意識のある分野などから意外と「こんな勉強がしたい」と思うことが見つかったり、苦手なりに勉強したことが何かとつながって後々生きてくることも多いからです。そのうえで、進んだ道では失敗を恐れずにいろいろ挑戦してください。努力や失敗は決して無駄にはなりません。「次はどうしたらいいんだろう」と考えて想像することが、いいアイデアにつながる近道だと思います。

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