江戸時代の和歌

江戸時代の和歌

和歌愛好者がいっぱいの江戸時代

江戸時代の和歌といっても、例えば万葉集や古今和歌集のように有名な歌集があるわけでもなく、紀貫之(きのつらゆき)や藤原定家(ふじわらさだいえ)のように和歌史上に大きな実績を残した歌人がいるわけでもないので、一般にはその意義が理解されているとはいえないでしょう。しかし、上は天皇から下は農民・町民に至るまで、あらゆる身分階層の人々が和歌を愛好し、無数の作品を残した江戸時代は、和歌のあり方を根本的に変えました。それに和歌に興じた人々の意識を直接伝える歴史的資料がかなり大量に残っている点も、それまでの和歌とは状況がまるで違います。

和歌活動の実態とは?

そもそも和歌という文芸は、複数の門人が特定の師匠の指導を受けるという形態を取りますが、師匠の歌の能力と指導力が卓越するほど、多くの門人をひきつけることになります。師匠は門人に出題し、門人たちは集まって指定された題で和歌を読み、世話役がそれらを取りまとめ、詠草(えいそう)として師匠に送ります。師匠は一首一首を読んで優れた歌に印をつけ、より良い歌にするために添削を加えて送り返すのですが、その添削済みの詠草と、やりとりを具体的に示す書状が一緒に保存される場合があり、門人同士がどのように競作し、師匠がどのような観点からどの歌を評価したのかが手に取るようにわかるのです。そのような資料を積極的に収集し、分析することで、江戸時代の和歌を、その創作現場に密着して理解し、和歌史的に意味づけることができます。資料は非常に多く伝わりますが、時代の中心に位置した歌人を選んで、一門の動向とともに調査していけば、必ず新しい江戸時代和歌史を自分の手で書くことができるでしょう。
まずは、資料の向こうにある江戸時代の歌人たちの素顔を間近に見てみたいと思うこと、これが研究の出発点です。

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広島大学 文学部  教授 久保田 啓一 先生

広島大学 文学部 教授 久保田 啓一 先生

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研究は思索と調査によって一つ一つ解明していくもので、誰かが既にやった仕事を適当につまみ食いして、さもわかったかのようにごまかしてしまうことは通用しません。自分の手と頭を使って、今まで誰も読み取ることのできなかった文章の意味を解明したり、今まで誰も注目しなかった人の価値を見出したりすることは本当に楽しいものです。あなたも自分ならではの文学研究に取り組んでみてください。

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