海で分解されるプラスチック、カギは「でんぷん」?
でんぷんを使った新たなプラスチック
人間が捨てたゴミが環境に悪影響を与えることが問題になっています。環境に優しい新たな素材を作ろうと、海の中でも分解される「海洋生分解性プラスチック」の研究が行われています。例えばポリ乳酸という素材を使ったプラスチックの開発です。ポリ乳酸はトウモロコシなどの植物資源から作られており、高温多湿な土の中で分解されやすいという特徴を持っています。ただしこれは温度の低い海水の中では分解されにくいのです。この課題を解決するために、海の中でも分解されやすい材料である「でんぷん」を加えた、新たなポリ乳酸が開発されました。
分解の助けとなる「菌の巣」
でんぷんを加えたポリ乳酸のフィルムを海水内に吊り下げると、最初はでんぷんを食べる菌が集まってきます。さらに菌は自分が成長しやすい環境を作るために、ポリ乳酸フィルムの表面に「バイオフィルム」と呼ばれる巣を作ります。菌は2ヶ月ほどででんぷんを食べ尽くして離れていきますが、あとからポリ乳酸を分解する「エステラーゼ」という酵素を持つ別の菌がやってくることがわかりました。その結果、実験開始から6ヶ月後には、ポリ乳酸の量が約20%減少しました。経過観察を続ければさらに分解が進むと考えられます。一方でバイオフィルムがないポリ乳酸には、エステラーゼを持つ菌が寄ってこず、プラスチックの量は減りませんでした。このことから、分解には菌が作るバイオフィルムが重要だと考えられます。
環境に優しい素材を広めるために
でんぷんとポリ乳酸を組み合わせた海洋生分解性プラスチックを実用化するためには、開発コストの高さや、利便性を改善しなければなりません。従来の石油由来のプラスチックは加工がしやすく強度が高いですが、ポリ乳酸素材のものには固くてもろい、という弱点があります。そのままでは加工しにくいため、別の生分解性プラスチックや素材を組み合わせてしなやかさなどを出すなど、さらなる改良が求められます。
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先生情報 / 大学情報
大阪大学 工学部 応用自然科学科 応用化学科目 准教授 徐 于懿 先生
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