講義No.12621 史学・地理学

目的は「お返し」? さまざまな国が中国に使者を送った理由

目的は「お返し」? さまざまな国が中国に使者を送った理由

古代アジアにおける外交の中心

西暦5~10世紀頃のアジアは、多くの国が仏教国でした。広く共有されたことにより、仏教は単なる宗教ではなく、国内を統治する政治的意味を持ち、外交のツールになります。現代の外交は英語と西洋文化的な考えが基盤ですが、当時は同じような役割を仏教が果たしていたわけです。そんな中、いち早く仏教を基にした国を確立させた中国は尊敬の対象であり、日本からの遣隋使や遣唐使だけでなく、諸外国から多数の使者が来ていました。

なぜ使者や留学生を送ったのか

諸国が中国を敬う形で外交を行っていたのは、返礼が目的です。例えば日本からの貢物が綿などの原材料であったのに対し、書物や絹製品、工芸製品、衣服をもらえました。立場が上の者が下々に恵むという図式のため、返礼品の方が高級なのです。また交易環境の整備や、日本に関して言えば、留学生を受け入れてもらえることも大きなメリットでした。当時の日本が中国の統治体制から学べることは多くあり、留学生の持ち帰った情報を基に、官僚制や天皇権力の強化が進められました。しかも滞在費用はすべて、中国側が負担してくれたのです。

使者を受け入れる中国の思惑

他国からの使者や留学生を受け入れるメリットは中国側にもあり、諸外国からさまざまな人が訪れて来ると、国民は素晴らしい皇帝だからだとみなします。来訪の目的が仏教に関することですから、寺にも費用を負担させやすく、一方で海外の商人が安全祈願のため寺に寄付をするという形で、ある程度はうまく経済サイクルも回りました。ただ、それでも負担は大きく、時には使者の入国を制限することもありました。使者を警備しながら移動させ、彼らの食費も負担するなど、受け入れには相当お金がかかるのです。かと言ってまったく使者が来ないと「今の皇帝には徳がない」と国民に思われてしまうため、完全に拒絶するわけにもいきません。そんな具合に、国々の思惑や利益の追求が絡み合いながら、当時の外交は行われていたのです。

※夢ナビ講義は各講師の見解にもとづく講義内容としてご理解ください。

※夢ナビ講義の内容に関するお問い合わせには対応しておりません。

先生情報 / 大学情報

大阪大学 文学部 東洋史学専修 准教授 河上 麻由子 先生

大阪大学 文学部 東洋史学専修 准教授 河上 麻由子 先生

興味が湧いてきたら、この学問がオススメ!

東洋史学

先生が目指すSDGs

メッセージ

今のような近代的国家がなかった頃は、人は国家に従属している観念が今より希薄で、それぞれの人々が最善を尽くし、自らの利益を追求していました。従って歴史上の人物になった人々も、私たちが想像するより人間くさい生きざまを送っていたのです。史料を通して、人々の生々しい怒りや喜びに触れていくのは、非常に興味深いことです。歴史上の人たちに思いをはせるのに必要なのは、自分以外の人に対する興味と関心です。普段から自分を取り巻く世界に興味を持つと、歴史の見え方も変わってくるでしょう。

先生への質問

  • 先輩たちはどんな仕事に携わっているの?

大阪大学に関心を持ったあなたは

自由な学風と進取の精神が伝統である大阪大学は、学術研究でも生命科学をはじめ各分野で多くの研究者が世界を舞台に活躍、阪大の名を高めています。その理由は、モットーである「地域に生き世界に伸びる」を忠実に実践してきたからです。阪大の特色は、この理念に全てが集約されています。また、大阪大学は、常に発展し続ける大学です。新たな試みに果敢に挑戦し、異質なものを迎え入れ、脱皮を繰り返すみずみずしい息吹がキャンパスに満ち溢れています。