心の豊かさを人間関係に求める若者たち
時代とともに変わる価値観
かつてと比べると、若者にとって「友だち」はより重要な意味を持つものになりました。周囲の同年代から、「友だちがいないのではないか」と見られることに不安を感じる人も増えています。これは社会的な価値観の移り変わりとともに、「友だち」をとらえる視点が変化してきたからだと考えられます。
戦後すぐは日々の食事に困るほど、生きるために切羽詰まった状況でしたから、友だちのことを一番に考えるよりも、やらなければならないことがたくさんありました。そして高度経済成長期には誰もが豊かな生活をめざしていて、懸命に働くことが大切だと考えられていたのです。しかし物があふれ、経済が成熟していくとともに、物質的な豊かさを求める人は多数派でなくなり、社会全体が共感できるような目標ではなくなっていきました。
心の豊かさが重視される時代
今の大学生はだいたい90年代生まれです。彼らの親の世代は60年代生まれ、高度経済成長期に10代を過ごした世代が中心でしょう。その子どもである現在の大学生は、物の豊かさよりも心の豊かさを重視する世代になりました。物質的にはある程度満たされ、物の豊かさを求めること自体に価値が見出せなくなったのです。友だち、恋人、家族といった身近な人たちとの関係、そのつながりの中でうまく暮らしていくことが、より重要だと考えるようになりました。統計的にみても、そう考える人の数字は年々増えています。
それぞれの価値観で豊かさを求める時代
これを別の視点で考えれば、心の豊かさ以外の目標が持ちにくくなった時代とも言えます。若者にとって心の豊かさとは、身近な人たちとの関係、特に友だちとの関係を意味します。友だちの存在を心のよりどころにして、いるのが当たり前、いないなんてはずかしい、そんな価値観があることが伺えます。最近は、価値観の違う人同士が認め合い、お互いをリスペクトするという考えの人も増えてきました。多様な価値観の中から、それぞれの「豊かさ」を求める時代に突入したと言えるでしょう。
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先生情報 / 大学情報
大阪大学 人間科学部 社会学科目 コミュニケーション社会学分野 教授 辻 大介 先生
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