支払うべき、しかし支払われていない養育費

養育費未払い問題
両親が離婚をした場合、子どもは一緒に暮らしていない親から、養育費を受け取ることができます。子どもの権利ですが、実際に養育費を受け取るのは、親権を獲得した側(多くが母親)です。これは子どもの衣食住、教育などのためのお金で、その支払いは義務とされていますが、多くの離婚家庭で未払いが起きています。この原因の一つとして、日本の法律では未払い養育費の回収が困難であることが挙げられます。給与を差し押さえるなどの対処方法はありますが、住所や勤務先、銀行口座などを変えられてしまうと、一般の人はそれを調べるのが難しくなってしまいます。
アメリカ、北欧の例
ある年のOECD(経済協力開発機構)の調査では、先進国の平均値に比べて、日本の子どもの貧困率はやや高い程度とされていました。しかし、一人親世帯に限って見ると下から3番目であり、ぐっと貧困率が高まるのです。ここに養育費未払いの問題が関係しているのではないかとの仮説からスタートした研究があります。
この研究では、未払い問題に対するアメリカと北欧諸国の制度を調査して、日本も含めて比較を行っています。簡単に言うと、アメリカでは行政が養育費回収を手伝う、北欧諸国では行政がいったん立替払いをしてくれるというスタイルが確立しています。双方の制度にはそれぞれメリット・デメリットがありますが、その点も考慮して、日本に合った解決策が模索されているところです。
課題解決に向けた新たな動き
そんな中、日本でも明石市とさいたま市が、北欧諸国の制度に似た「養育費立替支援事業」を開始しました。このような動きが広まることにより、徐々に未払い問題が解決に近づくことと、世論として「養育費を払わないのは違法である」との認識が醸成されていくことが期待されています。
家庭という非常にプライベートな場に行政がどこまで介入すべきか、その正当性を裏付ける理論的根拠の構築という課題はあります。しかし、それがクリアできれば、この問題に明るい兆しが見えてくると期待されます。
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駿河台大学法学部 講師宮下 摩維子 先生
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