捉えどころのない現実をいかに考えるか 労働経済学の場合
女性が活躍する社会のために
日本はいま、人口構造の変化により、働き手が希少になる「労働力希少社会」に本格的に入ってきています。これからは、雇用の質を高め、人びとの潜在的な能力を十分に発揮できる環境の整備に向けて誘導することが政策課題になってきます。しかし日本のジェンダー・ギャップ指数(男女格差を示す数値)は、146カ国中116位(2022年)と女性の労働市場での活躍は不十分な状況にあります。2015年に成立した女性活躍推進法について、当初は「管理職の30%以上を女性にする」という主張もありましたが、結果的に個々の企業の自主性を重んじることにしました。こうした政策の内容や妥当性などを議論する際には、労働経済学や社会保障論といった学問の力が役立てられています。
現実を捉える学問
シンプルな経済理論によれば、「少しでも賃金が高い会社があればすぐに転職する」となりそうですが、現実はそうではありません。これは、労働者が職業経験を通じてスキル形成をするとともに、家族を育み生活者として生きていく人間であるからです。一見、捉えどころのないように見える現実ですが、それを組み込んだ理論を考え、政策に活かそうとする点が、この学問の特徴です。そのため、統計データを分析することや、関連する政策や他国との比較、また労働者や事業主といった当事者に意見を聞くなど、さまざまな手法・観点から考えることが不可欠になります。
研究が政策につながる
少子高齢化が進む日本では、女性を含む多様な人材が社会の中で求められるようになり、働き方や暮らし方も変化してきました。女性活躍推進法だけでなく、政府や自治体は労働や社会保障に関するさまざまな政策を掲げています。そうした政策を考え審議する場には、経済学者が名を連ねていることも多く、専門的な知見を提供し、政策提言を行っています。つまり、学んだことや研究した成果がよりダイレクトに国民の暮らし、豊かな人生につながりやすい点が、経済学や労働経済学がもつ大きな意義であるといえます。
※夢ナビ講義は各講師の見解にもとづく講義内容としてご理解ください。
※夢ナビ講義の内容に関するお問い合わせには対応しておりません。