働かないアリがいるって、ホント?

働かないアリがいるって、ホント?

アリに「司令塔」はいない

個体より上のレベルをあつかうマクロ生物学では、生物がなぜある行動を取るのか、なぜ数が減ったり増えたりするのかなど、生物の体の外で起きる現象を研究します。
例えば、アリは、ほかの虫と違ってコロニー(集団)で暮らします。人間と違うのは全体を制御するために「ああしろ、こうしろ」と命令する司令塔がいないこと。アリは昆虫なので人間のような知能はなく、そういうことはできません。しかし、一匹一匹が簡単なルールに従うことで、何百匹ものコロニー全体にとって利益となるような集団行動を取ることができます。

よく働くアリと、ほとんど働かないアリ

アリは働き者というイメージがありますが、それは外に出てエサを取る姿しか見ていないからです。巣の中を観察してみると、7割くらいは何もしておらず、長い間ずっと何もしないままのアリもいます。エサ取りや女王の世話など、コロニーにとって役立つ行動を労働とみなし、1カ月ほど行動を観察してみると、よく働くアリとほとんど働かないアリがいることがわかりました。それぞれを別にして新しいコロニーを作ると、よく働くアリのコロニーにはやはり働かないものが出てきて、ほとんど働かないアリのコロニーには、よく働くアリが出てきます。その割合は、ほぼ同じです。こうなるのは、仕事が出す刺激への反応性に個体によるバラツキがあるため、にぶい個体はほかのものに仕事を取られてしまい最後まで働けないからです。

働かないものがいるほうが有利?

動物は動くときに筋肉を使うため、労働後は休息を取らなければなりません。しかし、卵の世話などはいつも行われることが必要で、誰も働かなくなると支障が生じます。一部のものがいつも休んでいるシステムでは、何もしていなかったアリが働き出すことで疲れたものの穴埋めをし、コロニー全体で常に誰かが働いています。コロニーに働かないアリが必ずいるのは、こうした理由があるからです。
このような、生物の個体レベル以上の不思議を解明するのが、マクロ生物学の目的です。

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北海道大学 農学部 生物資源科学科 准教授 長谷川 英祐 先生

北海道大学 農学部 生物資源科学科 准教授 長谷川 英祐 先生

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進化生物学

メッセージ

基礎科学の疑問は、「HOW」と「WHY」のどちらかです。例えば「カブトムシのツノはどうやって長くなるのか?」という疑問はHOWで、答えは、幼虫のときに頭部にある細胞が伸びてツノになる、です。一方、WHYの疑問は、「なぜ角が必要なのか?」で、答えは、オスはエサ場でほかのオスと闘って排除し、メスを獲得するのにツノが必要だからです。両方答えてはじめてツノの意味が理解できます。それが役に立つかどうかは問題が生じてはじめて決まるので、基礎科学の意味は理解することそのものにあるのです。

北海道大学に関心を持ったあなたは

北海道大学は、学士号を授与する日本最初の大学である札幌農学校として1876年に創設されました。初代教頭のクラーク博士が札幌を去る際に学生に残した、「Boys, be ambitious!」は、日本の若者によく知られた言葉で本学のモットーでもあります。また、140余年の歴史の中で教育研究の理念として、「フロンティア精神」、「国際性の涵養」、「全人教育」、「実学の重視」を掲げ、現在、国際的な教育研究の拠点を目指して教職員・学生が一丸となって努力しています。