X線で見える影は? 科学技術が進化させる彫刻史研究
日本の宗教彫刻
江戸時代までにつくられた日本の彫刻は、仏像や神像、獅子や狛犬といった宗教彫刻がほとんどです。日本美術史の分野では、こうした作品が、誰が、どんな思いを込めて、どのような技法で作ったか、といったことを研究します。前近代の彫刻で最も有名な作品の一つに、東大寺の「仁王像」があります。これは鎌倉時代の初頭に、運慶・快慶といった「慶派」の仏師が手掛けた全長8m以上の木彫像で、筋骨隆々の迫力ある作風が特徴です。平安時代から鎌倉時代へと移り変わる時代の過渡期においては、平安時代後期に好まれた穏やかな作風とは全く異なった新たな表現が模索されました。
彫刻の内と外
美術史学では、絵画であれば筆使いや色使い、彫刻であれば立体表現など、外から見てとれるスタイルや特徴を観察するところから、探求が始まります。日本の彫刻は、平安時代以降は木材でつくる木彫像が主流になります。像内は空洞にすることが多く、像底の開口部から像内を観察することができます。そこに墨によって書き付けがあったり、人々の願いを込めた願文(がんもん)という書が封入されていることもあります。こうした実地調査で得られた情報を、歴史のさまざまな記録と照らし合わせることで、仏像を作らせた人の名前や、仏像に込めた思いをはじめ、さまざまな発見が得られるのです。
見えないものを可視化する
像の内部を、科学技術を使って透視することもあります。例えばX線を照射して像の内部を調べれば、目視では見えない、取り出せないものの存在を突き止められます。さらに近年では、撮影した断層をつなぎ合わせる「CTスキャン」技術で、内部の様子を3次元的に捉えることも可能になりました。
はるか昔につくられた仏像を、現代の学問や技術の力で捉えなおしてみることで、当時の人々の技術や願いを明らかにし、後世に伝えることもできるようになるのです。
※夢ナビ講義は各講師の見解にもとづく講義内容としてご理解ください。
※夢ナビ講義の内容に関するお問い合わせには対応しておりません。